研究課題/領域番号 |
23310040
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中田 慎一郎 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70548528)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | DNA損傷応答 / ユビキチン / BRCA1 |
研究概要 |
DNA二本鎖損傷修復には非相同末端結合と相同組換え修復がある。PARP阻害剤によるDNA損傷はこのうち相同組換えによる修復を受けるため、相同組換え修復に異常を持つ細胞はPARP阻害剤に感受性を示す。BRCA1は相同組換え修復に必須の遺伝子であり、BRCA1に変異を持つ乳癌の治療としてPARP阻害剤による化学療法が期待されている。しかし、BRCA1が変異した細胞であっても、53BP1というDNA二本鎖損傷応答分子の発現が低下すると相同組換え修復が復活することが最近示された。このことは、難治性乳癌の薬剤耐性機構の一つを示している。私はDNA二本鎖損傷時に起こるクロマチンユビキチン化に着目し、ユビキチン化酵素RNF8がBRCA1-53BP1欠損細胞において果たす役割について機能解析を行った。その結果、RNF8がBRCA1-53BP1欠損細胞における相同組換え修復に必須の分子であることを見いだした。BRCA1-53BP1欠損細胞では相同組換え配列の探索に必須となるRAD51のDNA損傷部位への集積が認められるが、RNF8をノックダウンすると、RAD51の集積が認められず、相同組換え修復効率も抑制された。ここで、RNF8再度発現させるとRAD51の集積は回復するのに対し、E3ユビキチン活性を欠くRNF8を発現させてもRAD51の集積は回復せず、RNF8のE3ユビキチンリガーゼ活性がBRCA1非存在下に相同組換え修復を制御していることが示された。また、BRCA1-53BP1-RNF8欠損細胞では、RPAのDNA損傷部位への集積が観察されることから、RNF8はDNA end resectionよりも下流でRAD51をDNA損傷部位へと局在させる過程で機能を果たしていることが示された。 siRNAライブラリのスクリーニングを行い、その結果から相同組換えに関わる新規遺伝子を同定しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定していたとおり、RNF8がBRCA1-53BP1欠損細胞においてRNF8がどのように相同組換え修復を制御する分子機構を解明することができた。予想では、DNA損傷部位におけるクロマチンのユビキチン化がクロマチンの構造変換をおこし、DNA end resectionを起こしやすくすると考えていた。しかし、実際には、RNF8はend resectionよりも下流を制御していることが示された。これは、クロマチンユビキチン化がRPAとRAD51の交換に役割を持つという新たな分子機構が存在することを示すものであり、相同組換え修復制御の分子機構解明において大きな意義を持つ発見である。 また、新規の相同組換え制御分子を同定しつつあり、その成果は当初計画を上回っていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果を受け、RNF8によるクロマチンユビキチン化が相同組換え修復に与える影響が、なぜ、正常細胞とBRCA1発現抑制細胞とで異なるのか、その分子機構を明らかにしていく。また、クロマチンユビキチン化が過剰な状態(すなわち、RNF8ノックダウンと反対の状態)において、相同組換えにはどのような影響が起こるかについても検討を行っていく。このとき、RNF8の過剰発現を利用することもできるが、より生理的な状況での実験を行うため、クロマチンユビキチン化を負に制御する脱ユビキチン化酵素の抑制を利用して研究を進めていくことを計画している。このとき、これまでに行ったプロテオミクスやsiRNAスクリーニングの解析結果の中に研究を進めていく上での手がかりが存在するので、これらのデータを活用していく。
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