研究課題/領域番号 |
23310046
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
高田 秀重 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70187970)
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研究分担者 |
綿貫 豊 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (40192819)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プラスチック汚染 / 海鳥 / 化学物質 / 臭素化ジフェニルエーテル / ストマックオイル / Pellet Watch / マイクロプラスチック / ハシボソミズナギドリ |
研究概要 |
前年度までの研究でハシボソミズナギドリが摂食したプラスチック片から臭素系難燃剤ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)が鳥の脂肪組織へ移行していることを明らかにしてきた。本年度は、プラスチックから消化液へのPBDEsの溶出実験を行った。PBDEsが練り込まれているプラスチック板を購入し、それをmmサイズに切断し、蒸留水、海水、ペプシン酸性水溶液、魚油、ストマックオイルを用いて、脱着実験を行った。ストマックオイルは分担者の綿貫が粟島にて、生きた海鳥から採取した。脱着実験の結果、蒸留水、海水、ペプシン酸性水溶液ではプラスチックからPBDEsの溶出はほとんど確認されなかった(含有量に対して1%以下)が、魚油を用いた実験では含有量に対して40%のPBDEsの溶出が確認された。ストマックオイルの場合も15%のPBDEsの溶出が確認された。この実験から、ストマックオイルがプラスチックから化学物質の溶出、生物組織の移行を促進しているこが明らかになった。 前年度までの12羽に加えて19羽、計31羽のハシボソミズナギドリの脂肪組織と胃内プラスチック中のPBDEsの分析を行った。5個体の脂肪組織からでBDE209が、1個体からBDE183が検出された。これらの個体については、胃内プラスチックからもBDE209, BDE183が検出された。ただし、胃内プラスチックからBDE209が検出されたが、脂肪組織からBDE209が検出されない個体があった。この個体については肝臓と血液からBDE209が検出された。プラスチックから体組織へのPBDEsの移行が確認されると共に、プラスチック、ストマックオイル、肝臓、血液、脂肪の順での化学物質の流れも明らかにできた。 他の棲息域、他の種の海鳥について同様の検討を行うために、南アフリカの研究者を訪ね、試料の提供を受け、日本に輸送し、冷凍保管した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
摂食プラチックから海鳥組織への化学物質の移行を明らかにした。本研究が行われるまでは、プラスチックからそれを摂食した生物への化学物質の移行について示唆はされていたが、我々がPCBsで得た結果も含め、証拠は弱いものばかりだった。本研究で、はじめて、プラスチックからそれを摂食した生物への化学物質の移行について強固な証拠を提出した。この結果を海洋汚染関係の国際誌に掲載したところ、高く評価され、国際的な論文評価機構であるFaculty 1000より推薦を受けた。本年度はさらにプラスチックから海鳥組織への移行メカニズムを解明するための脱着実験を行い、成果を挙げている。この成果をもとに南アフリカやオランダの研究者との共同研究も開始された。成果も順調に学術雑誌への投稿を行っている。また、成果の社会還元についても、市民に公開した国際シンポジウムの開催、Natureへのcomment掲載、一般向けの英文の本の執筆、ブログへの寄稿、市民講座での講演、UNCRD等の国際会議での招待講演等、いずれも本科研費の成果を基にした信頼性の高い成果の社会還元を行っている。以上より、当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
海洋環境や生物摂食プラスチック中の化学物質の分布の把握について、その種類と試料数を拡大する。また、プラスチック中の化学物質の分析法については、世界の研究者を招き、本学で国際ワークショップを開き、情報交換を行う。また、プラスチックから海鳥への化学物質の移行については、そのメカニズムを解明するために、体内の各組織中のPBDEsの分析を行うと共に、海鳥を用いたプラスチックの摂食実験を行う。
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