研究課題/領域番号 |
23310055
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
片山 新太 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 教授 (60185808)
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研究分担者 |
鈴木 大典 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 助教 (10591076)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ヒューミン / 固体電子メディエータ / ペンタクロロフェノール / 嫌気的脱塩素反応 / 細胞外電子伝達系 / キノン構造 / 化学的安定性 / 微生物付着 |
研究概要 |
土壌・底質に分布する腐食物質の内で酸にもアルカリにも不溶のヒューミンが、ペンタクロロフェノール嫌気脱塩素微生物群の細胞外電子伝達を担う固体電子メディエータとして機能することを明らかにした。ヒューミンは電子受容体としても電子供与体としても機能した。この機能は、水溶性腐植酸やアントラキノン-2,6-ジスルホン酸等の水溶性電子伝達物質では無いか、もしくはあっても不安定で短期に機能が消失した。ヒューミンの電子伝達機能は非常に安定で、30分の過酸化水素処理、0.1N塩酸処理(48時間)、塩酸ヒドロキシルアミン処理(0.1M、48時間)、水素化ホウ素ナトリウム処理(0.1M、15時間)、加熱処理(121℃、30分)でも影響を受けなかった。サイクリックボルタモグラム解析により、ヒューミンは酸化還元中心を有することが示唆され、電子スピン共鳴解析によりキノン構造がその中心であると推定された。フーリエ変換赤外分光分析および固体核磁気共鳴分析により、アリールカルボニル基の存在が証明された。酸化還元中心の割合は非常に小さいが、電子伝達能力のポテンシャルは非常に高いことが、微生物脱塩素反応の活性増加から明らかにされた。ペンタクロロフェノール脱塩素微生物群は、ヒューミン上にコロニーを形成することが観察され、微生物がヒューミン上に付着することによって電子伝達が行われることが示唆された。以上の発見は、原位置微生物浄化技術にヒューミンを電子伝達物質を用いた微生物脱塩素活性化につながるもので、環境修復技術の開発という観点から意義深い。また、嫌気微生物の細胞外電子伝達系が、環境中に広く分布するヒューミンによって担われる点は、環境微生物学の見方を変える大きな発見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画は3年間の期間に、(A)ペンタクロロフェノール還元的脱塩素反応を高める水田土壌中に分布する固体電子メディエータの特異的化学構造の解明、(B)固体電子メディエータの還元的脱塩素反応における役割の解明、(C)固体電子メディエータと微生物間の電子授受メカニズムの解明の3つの観点から、ペンタクロロフェノール還元的脱脱塩素反応とリンクする固体電子メディエータの実態を明らかにすることを目的として、研究を進めたきた。現在2年目終了時であるが、3つの課題の内、課題(A)と(B)は達成し、課題(C)も半分は達成した。課題(A)では、各種土壌に存在するヒューミン画分はいずれも固体電子メディエータとして機能する一方で、腐植酸やアントラキノン-2,3-ジスルホン酸等の水溶性腐食類似物質は機能しないこと、ヒューミンと同等の機能を持つ固体物質を新に合成する方法を見いだしつつある。このように課題(A)は前倒しで達成できる予定である。また、課題(B)では固体電子メディエータを化学的酸化・還元をあらかじめ行って評価することによって電子供与体・受容体の両方の機能を持つことを明らかにし、課題(B)を達成した。現在、これに基づく応用研究を展開している。課題(C)では、走査型電子顕微鏡による観察よりも蛍光顕微鏡の方が、実態観察を行うために有利であることを明らかにして、ヒューミン表面での微生物増殖を明らかにした。残る課題としては電子輸送メカニズムの解析であるが、現在、化学的アプローチと生物学的アプローチの両方から解析を進めている。以上の成果を環境系一流紙を含め4報の国際学術誌で発表し、さらに現在2報を投稿中である。以上のように、当初設定した課題を上回る成果を上げていることから、これまでの達成度を(1)当初の計画以上に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画の中で残された課題は、固体電子メディエータと微生物の間の電子伝達メカニズムの解明である。これに対するアプローチとして、酸化還元電位の制御によって電子受容体としてのみ、または電子供与体としてのみヒューミンが機能する培養環境を整えて、そこでの現象を解析することによって、それぞれの電子伝達現象をとらえるところを突破口に進める計画である。
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