研究課題
当該研究機関では有毒アオコ原因ラン藻ミクロキスティスに感染する唯一のファージMa-LMMO1を保有している。本ファージの遺伝子情報を活用し、アオコ環境におけるファージゲノムならびにミクロキスティスゲノムのウイルス耐性遺伝子領域に存在する無数のファージ由来配列(スペーサー)を大量に解読して、環境におけるウイルス・ミクロミスティスの多様性を明らかにし、アオコ防除技術の確立に向けた基盤を構築することを目的としている。23年度の成果は下記のとおりである。1.アオコメタゲノム解析:メタゲノムデータ取得のための最適化京都府広沢池より抽出したウイルスゲノムをパイロシーケンス法に供し、ウイルスメタゲノムを得た。重複する配列を除去し、平均長が600bpを超える約6万のユニーク配列を得た。本メタゲノムの約150配列はミクロキスティスに含まれる約1000個のスペーサー配列を含んでいた。このうち18配列はそれぞれ複数のスペーサー相同配列を有しミクロキスティス感染性ウイルスに由来することが強く示唆された。本手法はミクロキスティスウイルスにとどまらず未同定環境ウイルス配列を同定するための強力なツールとなる。2.ファージ耐性獲得機構の解明:耐性機作の明確化分離したファージ耐性変異株では、ファージ感受性野生株で大量に発現する約90kDaのタンパク質が、ほぼ消失していた。そのN末端アミノ酸配列を決定し、NIES298株ドラフトゲノムより本タンパク質をコードずる機能未知の部分配列を得た。ファージは本タンパク質をターゲットにしている可能性が示唆され、ラン藻組換え系への応用が期待される。3.新規ファージの分離Ma-LMMO1タイプファージに由来する環境クローン配列を解読したところ、採取する場所あるいは年によって配列が異なり、本ファージの進化速度が高いことが示唆された。新規ファージの分離に向けた重要な基礎情報となる。
1: 当初の計画以上に進展している
アオコ環境は極めて生物量が多いことから、初年度はウイルスを調整しメタゲノム配列を得るための検討実験を数多く行うことが必要と想定していた。しかしながら、我々が以前より分離ウイルス株の調整法に用いていた手法がほぼそのまま転用可能であったため、アオコ環境よりウイルスメタゲノムを得ることに成功した。さらに宿主ゲノム上のウイルス履歴配列を用いることで、新規なウイルス配列を見出すにいたった。また、ウイルス耐性メカニズムについても、その候補遺伝子を見出すことに成功したことから、計画以上の進展と判断するに至った。
計画した手法を用いて初年度から新規ウイルス配列を見出すことに成功したことから、予定通りウイルス感染履歴配列(スペーサー)配列の解読数を増やし、さらに多くのミクロキスティス感染性ウイルスに由来する配列探索を行う。今年度内には、宿主とウイルスの組み合わせの多様性の実態解明を目指す。また、ウイルス耐性への候補遺伝子を見出すことに成功したことから、予定を大きく前倒だおしし組換え体を用いた本遺伝子の機能解明を目指す。
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http://www.microbiology.marine.kais.kyoto-u.ac.jp/