グラム陽性細菌Bacillus cereusが有するバイオポリエステル(PHA)重合酵素が、PHAの重合活性と共にアルコーリシス分解活性を有していることを見出した。このような重合酵素によるPHAの分解は、B. cereus系の重合酵素以外では報告されていない新規な現象である。一方で、B. cereus由来重合酵素は、大腸菌内で多量のPHAを合成できる優れた酵素でもある。本研究では、この酵素によるPHA分解機構を分子レベルで明らかにし、分解活性が抑制された重合酵素の創出、そして、高分子量体PHA合成に応用することを目的としている。 最終年度は、アルコーリシス活性に関与するアミノ酸残基として、システイン以外の触媒残基の特定を行った。まず、いくつかのBacillus属由来重合酵素のアミノ酸配列を比較し、保存されているアミノ酸残基を調べた。一般的に活性三残基は、システインまたはセリンの他は、ヒスチジンとアスパラギン酸で構成されている場合が多い。アミノ酸配列を解析したところ、保存性の高いヒスチジンとアスパラギン酸を見つけた。そこで、これらのアミノ酸を置換した酵素変異体を作成し、アルコーリシス活性測定に供した。その結果、アルコーリシス活性が消滅することを確認し、これらのアミノ酸残基が活性発現に関与することを明らかにした。 しかし、これらアミノ酸残基は、重合活性中心でもあるため、分解活性だけが抑制された改変体酵素を作製することは不可能である。一方で、アルコール非存在下ではアルコーリシス活性が抑制され、本酵素を用いても高分子量のPHAを合成できることが分かった。したがって、当初の計画とは異なるが、生産宿主のアルコール代謝を抑制することで、本研究の目的を達成することができた。
|