イミダゾールを有する結晶(ジカルボン酸イミダゾリウム塩)及び高分子(ポリビニルホスホン酸(PVPA ),アルギン酸(AA) )とイミダゾールの複合体を調製し,熱分析(DSC),電気伝導度及び固体NMRの測定を行った。 セバシン酸イミダゾリウム結晶においては,調製法を変えることにより,従来のセバシン酸(Seb)とイミダゾリウム(Im)の存在比が3:2のSeb3Im2結晶ではなく,存在比が1:1のSeb1Im1結晶をつくることができた。Seb1Im1結晶は323 Kで固相-固相相転移を示した。相転移温度以上では電気伝導度の値が急激に増大し,高温相では10-4 S/cm以上の高い電気伝導度を示した。固体NMRの測定により,Imイオンは高温相で速い等方回転運動をしていることが明らかになった。この結果より,高温相ではImイオンの速い回転運動が関与したプロトン伝導プロセスが存在すると予想される。 酸性生体高分子のAAとImの複合体については, AAとImの存在比を1:1から1:2にすると,電気伝導度の値が急激に増大した。1:2の複合体は約340 K以下で電気伝導度の活性化エネルギーは75 kJ/molであったが340 K以上では25 kJ/molとなった。1:1の複合体では室温から413 Kまでの温度領域で活性化エネルギーは68 kJ/molであった。同様の傾向は,PVPAとImの複合体にも見られた。固体重水素NMRの測定より,低温では運動性の異なった複数のImが存在するが,約340 K以上ではImの運動に大きな分布は見られなかった。1:1の複合体や1:2の複合体の約340 K以下ではImが動き難い領域の影響が電気伝導度を支配しているが,1:2の複合体の約340 K以上ではImの融解に伴い,Imの動き難い領域が無くなりプロトン伝導が効率よく起こるようになると予想される。
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