研究課題/領域番号 |
23310067
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒井 明 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80143543)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 金属単原子接点 / コンダクタンス |
研究概要 |
平成24年度の主な研究目標は以下の2点であった. (1)分子動力学の手法を用いて接点破断のシミュレーションを行うとともにコンダクタンスの理論計算を実行し,原子サイズ接点電極に関する知見を得ておく. (2)極低温環境下で安定な金属単原子接点・原子ワイヤを形成・保持し,接点のパルスおよび連続高周波の透過波形を測定し,電極容量を含めた接合全体の高周波伝導特性を明らかにする. (1)については,MgおよびFeを対象として接点破断の分子動力学シミュレーションを室温および液体ヘリウム温度で実施し,単原子接点の形成について,その結晶方位依存性および温度依存性を明らかにした.シミュレーションの結果は,材料の脆性が高いと思われる液体ヘリウム温度で,(変形応力は高くなるものの)室温よりもむしろ単原子接点が形成されやすくなる傾向を示しており,多くの金属に関する実験結果と一致した結論を与えている.また室温では,従来の接点破断シミュレーションで報告されていたpentagonal nanowireの形成が頻繁に観測されている. (2)については,極低温超高真空MCBJを立ち上げ,Niの単原子接点形成の温度依存性を調べるために,室温から液体ヘリウム温度に亘ってコンダクタンスヒストグラムの変化を明らかにする実験を行った. Niのコンダクタンスヒストグラムは室温では単原子ピークを示さないが,液体窒素温度でもヒストグラムに顕著な変化は見られなかった.そこで液体ヘリウム温度からの昇温実験を行い,Niの単原子ピークが温度の上昇とともに小さくなり,約50Kで消失することを見出した.コンダクタンスプラトーの解析から,単原子接点の寿命が短くなるのではなく,形成確率が温度の上昇とともに低下していることが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,接点破断の分子動力学シミュレーション,極低温環境下での金属単原子接点の形成とコンダクタンス測定をほぼ予定通り実施することができた.各装置もトラブル無く稼動しており,研究はおおむね順調に進捗している.高周波測定に未了の点があるが,平成23年度に分子接合で高周波測定の実績を挙げているので,今後の実験に特に大きな問題が起きることは無いと思われる. 予想外の障害となったことは,研究室の移転である.平成25年2月に実験室の移動があり,装置そのものは移動による問題は無いが,ヘリウムガスの回収系が使用できなくなっている.また世界的な液体ヘリウムの供給逼迫も重なり,年度末に液体ヘリウム温度での実験を十分に行うことが困難となった.液体ヘリウムの使用を可能にするために,今後対策が必要となっている.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,これまでの研究成果をベースにして,低温での金属単原子接点・単分子接合の高周波測定に注力する. 1.Au単原子接点の高周波測定 MCBJによりAu単原子接点を形成・保持し,ネットワークアナライザを用いて接点の高周波インピーダンス測定を行う.平成23年度のBDT単分子接合の実験から,GHz領域では電極容量や配線の影響が強くなりすぎると推定されるので,周波数域の上限は数100MHzにとどめておく.しかしAu単原子はBDT分子よりも数桁伝導度が高いので,電極容量の影響はそれほど大きくならない可能性もある.Au単原子接点の保持には液体ヘリウム温度が好ましいが,しばらく液体ヘリウムの仕様が困難であるため,液体窒素温度で実験を行う.4Kと77Kとで,おそらく接点保持時間に大きな差はでないものと思われる. 2.Pt-H-H-Pt単分子接合の高周波測定 水素雰囲気中でPt接点を開くと,電極間に2個の水素原子が直線状に架橋したPt-H-H-Pt単分子接合が形成される.これは原子配置やコンダクタンスが確定している数少ない分子接合の一つである.この接合を対象として,高周波測定を行う.これは1個の水素原子に高周波を透過させる実験である.水素化した接合としていない接合とではコンダクタンスが異なるので,Pt-H-H-Pt単分子接合のコンダクタンス状態が実現した時点で接合を保持し,1.と同様にネットワークアナライザを用いて接点の高周波インピーダンス測定を行う.Pt-H-H-Pt単分子接合もAu単原子と同じ高いコンダクタンスを示すため,電極容量の影響は大きくならないと見込まれる.しかし接合の保持には液体ヘリウム温度が必須であり,この実験までには液体ヘリウムの使用環境を整えておく.
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