本研究は、外部変調可能なプラズモン増強場を創製することを目的とし、パラジウム金属を用いたプラズモン回折格子の作製と評価、および、それを用いた水素センシング特性の評価に取り組んだ。 1.電場解析による構造の最適化:パラジウム回折格子の光学特性のシミュレーションには厳密結合波解析(RCWA)を用いた。パラジウム膜厚200nm、格子周期500nm、デューティ比0.5、格子深さ60nmの矩形の場合、波長850nmのp-偏光が入射角度42度で最も強くプラズモン結合した。 2.パラジウム回折格子の作製と評価:構造設計から見積られた格子パラメータをもとに、石英基板表面に二光束干渉露光とドライエッチングで1次元格子を形成し、その表面にスパッタ法でパラジウムを200nm成膜した。得られた格子にレーザーダイオード(LD)光(850nm、p偏光)を入射したところ、入射角度42度でプラズモン結合による反射率の低下が見られた。回折格子での明確なSPR曲線は過去の文献には報告がなく、本研究が初めてであると考えられる。 3.水素応答性の評価:水素雰囲気中でパラジウム回折格子を評価するため、水素ガスを導入可能な光学系を構築した。チャンバー内に窒素-水素混合ガスを導入し、0次反射光強度の入射角度依存性を調べたところ、偏光状態やプラズモン共鳴状態に依存することなく、水素濃度に応じて反射率が変化することがわかった。したがって、これまでパラジウム薄膜のプラズモン共鳴を用いた水素センシングに関する多くの報告があるが、その多くは、水素吸蔵による自由電子密度変化に応じた反射率の低下を検出している可能性が高い。水素検出の全光化は、今後の水素の安全利用の上で極めて重要であるが、パラジウム薄膜のプラズモン共鳴を用いた水素の高感度検出を実現するためには、誘電体フォトニック結晶構造の利用など、さらなるデバイス構造の最適化が必要である。
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