研究課題
本研究の目的は、無染色の生体試料の高分解能電子顕微鏡解析のための方法論を提案することにあり、さまざまな生体試料解析への応用の基盤技術を実証することにある。本研究では、一つの応用分野として、ナノ磁気微粒子の生体への伝達集積系の解析研究を進める。従来は、その伝達分布を電子顕微鏡で調べる際には、生体組織を何らかの方法で染色することで微粒子と生体の構造的な相互関係を解析してきた。しかし染色の結果、試料のナノスケール汚染を引き起こすこともあり改良すべき点であった。この問題の解決法の一つとして、極低温走査型透過電子顕微鏡暗視野法(ADF-STEM)による無染色解析方法を提案する。平成24年度に行った研究内容は以下である。(1) 磁気微粒子の作成と細胞への導入;シリカでコーティングし有機分子で修飾した鉄磁気微粒子の合成と、平行して別種の親和性を確立するために金修飾を進めた。これらの方法の生体適用性を細胞において検証し、生体親和性の高い金修飾微粒子系を調整した。この微粒子を細胞に捕食させ、微粒子と細胞の相互作用と伝達経路を解明するための標準材料として準備した。(2) 常温での無染色電顕観察;切片を作製することなく全細胞観察の可能性を探索した。その結果ADF-STEMにより、厚い試料においても観察できることを証明できた。特にナノファイバーによる細胞の固定を併用することで、利便性の高い試料固定方法の可能性を示した。取得される画像は、単純なZ-コントラストではないものの、細胞内構造を可視化できた。この成果は学会での招待講演として発表した。(3) 極低温ADF-STEM電顕像観察の研究;急速凍結により作成された厚い生体試料の観察の可能性を探るための基礎データを収集した。
2: おおむね順調に進展している
修飾鉄磁気微粒子を作成し、細胞への取り込みも開始することができた。また、無染色ADF-STEM観察によって、厚い細胞試料についても観察が可能であることを示すことができた。像コントラスト形成事例に関して学会誌や招待講演で発表した。ただし、取得される画像は、単純なZ-コントラストではないことが判明したが、その像形成の物理的背景の詳細を理解することは達成できていない。最終年度の課題である。全体としては、おおむね順調に進展していると評価できる。
極低倍での電子線走査で、暗視野と明視野が混合したと予想される特異な像が観察された。この像には定量性は低いと考えられるものの、厚い試料内部構造を視覚化する点に高い有用性があることが判明した。その物理的な背景を結像シミュレーションを援用して明確にする。ADF-STEMでの像コントラストを理解し、他の電子顕微鏡像との比較検討を行い、優劣の実証研究成果をまとめる。2013年末のソフトマター関係の国際会議での招待講演が予定されているので、これらの成果を発表する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
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