前年度までに、双頭型のアントラセン-チミジル酸誘導体(T-AC-T)を合成し、その自己集合体およびオリゴアデニル酸を鋳型とした二成分系自己集合体の構造について明らかにした。25年度は、これらの集合体中のアントラセンについて、その光学特性を調べた。TACT自己集合体の蛍光寿命測定を行ったところ、450 nm付近にダイナミックストークスシフト(DSS)が観察され、この波長成分の蛍光寿命は0.35 nsと求められた。このことは、自己集合体中のTACTが比較的動きやすい、フレキシブルな状態であることを示している。さらに、アントラセンのエキシマーと類似の構造が生成したことを示す蛍光成分が530 nm付近に観察され、その蛍光寿命は3.5 nsであった。一方、鋳型オリゴDNAとの二成分系自己集合体T-AC-T/dA20では、534 nmに蛍光寿命0.4 nsの蛍光成分が観察できた。このように、自己集合体と二成分系自己集合体中のアントラセンの蛍光寿命が3.5 nsから0.4 nsに大きく変化していることは、二成分系自己集合体中で励起されたアントラセンからエネルギー移動が起こっていることを示唆した。そこで、鋳型オリゴDNAの末端にHEX色素を修飾してT-AC-Tと二成分系自己集合させたT-AC-T/5'-HEX dA20をアントラセンを励起する波長で蛍光スペクトルを測定すると、アントラセン由来の蛍光波長成分が消失し、HEX色素の蛍光のみが観察された。このことは、集合体中でアントラセンからのエネルギー移動が起こっていること支持する結果である。すなわたし、T-AC-T/dA20の二成分系自己集合体中で励起されたアントラセンは、鋳型DNAにより失活しにくく、かつ一次元集積することにより、エネルギー移動のいわば通路になっているものと考えられた。
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