研究課題/領域番号 |
23310088
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 |
研究代表者 |
住友 弘二 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 主幹研究員 (30393747)
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研究分担者 |
鳥光 慶一 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00393728)
樫村 吉晃 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 研究主任 (90393751)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2015-03-31
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キーワード | ナノバイオ / 脂質二分子膜 / イオンチャネル / ストレス / AFM |
研究概要 |
(1)タンパク質のデバイスへの配置と機能化に関して、タンパク質の抽出・精製、および人工脂質膜への再構成を行った。Ca2+-ATPaseやGlur2に関して、精製したタンパク質によるプロテオリポソームの作製を確認した。溶液環境や脂質膜の電荷を制御することにより、巨大ベシクル(GUV)や平面膜へのベシクル融合の制御に成功した。GUVのマニピュレーションを組み合わせ、狙ったGUVへのベシクル融合によるタンパク質導入を可能にした。 (2)デバイス構築においては、以下の3点を実現した。膜タンパク質のイオンチャネル機能を計測するため、シリコン基板に形成するマイクロチャンバに電極を作りこんだ。基板表面の一部を金により修飾することで、脂質膜の固定化を行い、脂質膜と基板の間のイオンリークを抑制することに成功した。次に、デバイス構造における脂質膜の安定性を向上するために、マイクロチャンバへのハイドロゲルの封入と膜支持を実現した。脂質膜の機械特性制御に可能性を開いた。最後に、石英基板によるデバイス構造作製に着手した。蛍光顕微鏡を用いた機能計測とAFMによる機械刺激や構造観察を同時に行うことが可能となる。 (3)本年度NTTにおいて導入したイオンコンダクタンス顕微鏡とAFM計測の併用の検討を開始した。イオンコンダクタンス顕微鏡を用いることで、デバイス構造上の脂質膜と機械的相互作用を排除した環境でのイメージングの可能性がある。AFMと組み合わせることで、極微小な機械ストレスの制御を検討していく。 (4)デバイス構造上での、神経細胞成長を試みた。脂質膜上でのシンケイサイボウ成長制御に関しては、基板の構造や電化状態等、さらなる制御が必要となることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質のデバイスへの配置と機能化に関しては、グルタミン酸受容体やイオンポンプに関しては、一定の進展が見られた。機械刺激感受性の膜タンパク質に関しては、その抽出や精製に課題は残すものの、グルタミン酸受容体を含めた多くの膜タンパク質で膜ストレスの機能への影響が報告されており、本研究課題の進展に問題はない。 デバイスの構築に関しては、多くの試みがなされた。イオンリーク低減の実現は今後の電気計測に必須の成果である。さらに、ハイドロゲルによる脂質膜支持は、機械強度の向上に限らず、今後のハイドロゲルの機能化による膜ストレス制御へと大きな期待が持たれる。ハイドロゲルは、その弾性の制御が可能なだけでなく、電荷や外部刺激による構造変化など、多くの展開が可能となる。本成果は、当初予定していた以上の進展である。 AFMによる脂質膜への機械刺激では、通常の方法では機械刺激強度の大きさが問題になった。膜ストレスとしては、与える刺激が大きすぎることが課題である。イオンコンダクタンス顕微鏡を導入することで、機械的相互作用をほぼ完全になくした状態でのイメージングが可能となった。また、上記のハイドロゲルのデバイス構造への封入においても、デバイス構造内で脂質膜を機械的に支持し、従来困難であったAFMイメージングや機械刺激を可能にする。課題はあるものの、着実に進展している。 デバイス構造への神経細胞培養に関しては、センサーアレイと生細胞との接着に課題が残る。基板の構造や電荷状態等、最適化が求められる。次年度以降の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)デバイスの構築とタンパク質の機能化に関しては、イオンリークの低減をさらに進めて、イオンチャネル機能の電気計測を目指す。単一イオンチャネルあるいは、ごく少数のイオンチャネル活性を、電気信号により検出可能なデバイスへと進展させていく。また、マイクロチャンバ内への封入が可能になったハイドロゲルの機能化を進める。電荷をもつハイドロゲルや、光感受性のハイドロゲルの利用を検討する。これらハイドロゲルの機能化により、脂質二分子膜に与える膜ストレスの制御を目指す。 (2)AFMによる機械刺激に関しては、今年度までにイオンコンダクタンス顕微鏡の併用や、ハイドロゲルの支持により、微小な機械刺激への可能性を示した。今後は、機械刺激への応答の検出を目指す。石英基板上に作製したデバイス構造を用いて、脂質膜や膜タンパク質の蛍光顕微鏡観察とAFM(あるいはイオンコンダクタンス顕微鏡)の同時観察を行う。デバイス構造上の架橋脂質膜において、伸長ストレスの膜タンパク質に与える影響の検出を目指す。 (3)ナノデバイス上での神経細胞成長に関しては、さらに条件検討を進める。脂質膜の電荷状態や化学的修飾、あるいは基板の構造制御によって、神経細胞の成長を制御することを試みる。最終的には、接着タンパクの導入と、神経成長の制御へとつなげていく。
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