マイクロ電極を使用した内部短絡評価は、実際に短絡させると微細線がショートにより溶融断線し、内部短絡の継続が困難であった。融点の高いPtですらこの状況であり、融点が600℃程度のAlでは継続的な内部短絡の維持が困難であった。この事実は、微細な金属粉による内部短絡を発火事故の主因とする説に疑問を呈する。 内部短絡による電池内部の蓄電エネルギーの解放には電極反応速度の制限がかかる。すなわち、放電時における発火事故は電池反応速度を制限する電解液の抵抗が支配的となる。これを見積もるために、電流遮断法による電池内部抵抗の評価を行った。有限物質移動距離に対する電解液内イオン移動を表現する式を導出し、これを実際の電池系に適用したところ、Alラミネートパック型、扁平Al缶型、18650型のいずれでも電流遮断後の電池電圧の過渡応答を1mV程度の精度で表現することに成功した。その結果から考えれば、電解液の物質移動支配では電池発火に至るような高温状態にはなりにくい。 電池発火事故の原因を求めて、有機電解液の引火点の調査を行ったところ、120℃以上に加熱してから引火することで、初めて電解液の引火が観測されることが分かった。また、酸素欠乏状態では発火状態を維持できずに消化してしまう。つまり、電池発火事故は温度が少なくとも120℃以上の状態になければ起こらないことが明らかとなった。劣化電池の解体分析の結果では、正極に戻るべきLi+量が15%ほど減少し、その分が負極に留まり続けることもわかった。また、電解液中のLi+量も50%ほどに減少していることも明らかとなった。この事実は、負極上へのLiデンドライトの析出が主因と考えられた。 電池発火事故は、外部電源が接続されて大電流を供給し続けることが可能な過充電時がほとんどであり、過充電保護や充電電流、電池温度の監視が電池発火事故の抑制に有効であると結論した。
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