研究課題/領域番号 |
23310114
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
青木 義男 日本大学, 理工学部, 教授 (30184047)
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キーワード | 昇降機 / 構造健全性 / 予見保全 / 遠隔検知 / 残存強度評価 / 保守保全 / 遊戯施設 / 自動検知システム |
研究概要 |
平成23年度は、現行の昇降機・遊戯機械の定期検査制度における緊急課題と考えられる「構造健全性判断基準の定量化」について再検討し、「常時の保守点検を支援する構造健全性評価システム」を開発するための基礎的検討を行った。まず、従来の調査により得られた昇降機・遊戯機械の事故・故障要因から、重篤な事故につながりやすい「ワイヤーロープ」と「巻上げ機軸」に注目し、製造会社で用いられている昇降機用ワイヤーロープと巻上げ機軸の特徴、形状寸法や構成材料を調査した上で、疲労進展や破壊の初期的要因からかごの落下事故に至るまでの破壊進展メカニズムを材料試験やFEMによる数値解析によって解明し、構造設計の妥当性や重要保安部品の検査基準について事故事例を踏まえた上で、詳細にわたって検討を行った。この結果、昇降機ワイヤーロープにおいては駆動シーブ以外の返し車や吊り車に対しても、ワイヤーロープとの接触による摩擦摩耗や環境変動を伴う曲げ疲労の影響を十分に加味した設計と保守点検を行う必要性について言及した。また、巻上げ機軸については減速機構を伴う場合などに、主軸にかかる負荷を十分に考慮し、例えば段付き部とキー溝との位置関係や加工精度、表面仕上げや軸材料の表面処理などについて細かく配慮した設計施工が巻上げ機軸の耐久性向上に影響を与えることを示唆した。 次に、常時の保守点検を支援する構造健全性評価システムの開発については、昇降機ワイヤーロープの保守点検に際して、素線切れや錆・腐食、局部摩耗などを高精度で検知し、初期的損傷や残存強度を定量的に評価できるシステムとして、新たにフェイズドアレイ型ホール素子を用いた漏洩磁束の変動を検知するセンサシステムを導入し、初期の素線破断、局部摩耗、浸透度の異なる錆等、従来の検査機器では検知判別が困難な条件での損傷検知実験を行った。この結果、新たに導入したセンサシステムでは、分散した部分素線切れの検出や局所的な摩耗、錆についても高精度での検知が可能であること、30m/sec以下の移動速度ではノイズなどの影響が少なく、自動昇降機器にホール素子検知システムを搭載して行った自動損傷検知実験でも初期損傷検知が可能であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題(1)「構造健全性判断基準の定量化」については当初計画していた事故故障要因の分析と安全対策についての検討のみならず、昇降機ワイヤーロープの残存強度評価実験および巻上げ機軸の詳細な構造解析についても実施し、ワイヤーロープの保守点検における安全方策や巻上げ機軸の設計時における耐久性向上方策についても言及できた。また、課題(2)「常時の保守点検を支援する構造健全性評価システム」については、当初の計画通り初期損傷検知についての評価と高精度な構造健全性評価システム構築のための基礎的検討が実施できたため。
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今後の研究の推進方策 |
「(1)構造健全性判断基準の定量化」については、現行の定期検査の業務基準に対して、検査基準項目やその検査方法について確認検討を行う。例えば、次の定期検査までに材料劣化の進展が予測される安全基準の許容限界に近い場合の判定区分の見直しや、短期間での定期検査が必要となる部位の特定などを検討すると共に、不全進行の度合を直接視認や、従来方法で特定できない要因に関する検査方法についても検査項目や安全基準に盛り込んだ定期検査報告書の改善案を検討し取り纏める。 「(2)常時の保守点検を支援する健全性評価システム」の開発については、ホール素子センサシステム等を利用してより判別の困難な条件での損傷評価を行う認知判断アルゴリズムを検討する。これにはリアルタイム処理が可能な新たな信号処理手法や機械学習型の認知判断手法を応用し、その妥当性を検証する。
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