研究課題/領域番号 |
23310118
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
箕浦 幸治 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10133852)
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研究分担者 |
今村 文彦 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (40213243)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 津波 / 溯上流 / 戻り流れ / 重力流 / 堆積作用 / 海底地滑り |
研究概要 |
現状において津波による災害の科学的解明は定性的な状況にあって、特に戻り流れによる物質運搬についての理解はほとんど得られていない。本研究では、特に災害科学の立場でこの隘路を克服する目的を持って、陸と海で津波による物資運搬作用を特に堆積学の立場で解明しようとしている。強力な引き波がもたらす水理作用に注目し、津波引き波による自然現象を災害科学的にに評価する方法を確立する。引き波がもたらす運搬作用が大規模になると、流れは重力流を形成して陸棚縁辺にまで到達する。平成24年度には3.11津波の溯上域において溯上流がもたらす侵蝕作用の解明に勤め,地表面条件に依存する溯上流の水理効果が明らかとなった(結果をNatural Hazardsに公表;Minoura, HIrano and Yamada,2013).陸上でリワークされた堆積物は戻り流れにより海側に移送され,その結果重力流を形成して沖浜に集積したと考えられる.これを実証する目的で平成23年9月末と25年3月末に仙台湾で試料を採取し,移動砂の検出に成功した.今村は三陸北部沖での津波の伝播過程を数値的に復元し、海底地滑りが関わって津波が増幅したと予測している.理学と工学の学際的視野での津波重力流物質移動の解明は、新たな災害科学の研究領域を創出すると伴に、本研究得られた成果は災害予測に大きく貢献するものと考えられ、更には地殻侵蝕物質の最終定着を理論的に解明する地球科学的命題への糸口を与えるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溯上流の水理堆積学的機能については、仙台平野と相馬平野での調査を通してある程度の理解を深めることができた(結果を岩波科学に公表;箕浦,2011),戻り流れによる物質の移動過程については、下北半島での津波痕跡の発見に基づき堆積学的な解釈ができた(結果をNatural Hazardsに公表;Minoura, HIrano and Yamada,2013).仙台湾での海上観測と試料採取により、戻り流れが起因と成る重力流の痕跡を見出すことができ、その発生タイミングを今年度前半で明らかにしたい。戻り流れによる重力流の発生を下北半島の砂丘地域で確認できたのは大きな成果であり、今後の理解に貢献すると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
底生生物化石群集情報は、古環境の指標・復元に大きな威力を発揮し、本研究の場合にも大いに活用が期待される。種の棲み分けを利用して異地性物質の堆積起源を深度数m以内の精度で読み取ることが可能であり、従って最終集積場までの流れによる物質の運搬距離が古生物学的に評価できる。連携研究者(山田 努:東北大学大学院理学研究科助教、根元直樹:弘前大学理工学研究科講師)の協力を得て、コア堆積物中の珪藻及び底生有孔虫類の化石群集を解析し、押し波に続く海底下での引き波の水理学的効果を前年に引き続き明らかにする。流れの水理実験と数値実験は、研究分担者が中心となって2013惑星科学合同学会での公表に向けて進めている。計画の最終年度(25年度)では、試料解析結果を総括し、国際誌に成果を公表する予定である。海底流の復元は防災に留まらず、防潮堤の再構築や航路復元に不可欠の水理情報であり、これに基づき物質の海底斜面上移動が数値的に評価できる。結果は、海底施設(通信網、航路など)の安全設計に貢献するに留まらず、堆積物重力流の発生と定着に関する地球科学的解明に糸口を与えるであろう。
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