研究課題
細胞分化に必要な遺伝子の遺伝子座は、分化前に何らかの機序で選択的にマーキングされているのではないかと考えられる。本研究では、特に幹細胞から骨格筋分化への運命決定を行うクロマチン構造制御メカニズムをモデル系とし、“ゲノムマーキング”の動作機序の解明を進めてきた。本年度は高次クロマチン構造として、DNAやヒストンの修飾のみならず、ヒストン自体の置換減少や、選択的な遺伝子座の空間的近接(ジーンクラスタリング)を指標とし、複合的なゲノムワイドな解析を行った。骨格筋の分化運命決定を行う分子としてはMyoDが知られている。このMyoDの分化運命決定を行うメカニズムを解明するために、まずMyoD結合因子の探索を行いその結果、MyoDがクロマチンリモデリング因子の一つであるChd2と結合していることを見出した。更にMyoD/Chd2複合体同定の過程で、この分子がヌクレオソームと高い親和性を示すこと、このヌクレオソームの中にH3.3とよばれるヒストンバリアントが含まれていることを発見した。分化前後におけるゲノム上のH3.3の分布をChIP-seqにより解析を行った結果、H3.3が分化前後で転写活性化される遺伝子座のみならず、分化前に、分化後に発現する遺伝子座にすでに取り込まれている知見を得た。また、MyoDの発現抑制解析によりH3.3の取り込みとChd2のゲノム上へのリクルートがMyoD依存的であることが明らかとなった。以上の知見をまとめ、ヒストンバリアントによるゲノムマーキング機構として報告した(Harada et al 2012 EMBO J)。更に、このゲノムマーキングがジーンクラスタリングについても4C-seqを組み合わさせて解析し、昨年の知見と合わせて投稿中である。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は研究成果のみならず新たなゲノムワイド解析手法を確立して論文発表(Harada et al 2012 EMBO J、Maehara et al 2012Nucleic Acid Research)を行い当初予定を上回る成果を上げている。マウス胚より単離した核を用いた解析を現在進めている。当初予定していた核ソーティングによる純化による研究手法については既に確立していたが、研究を進める上で組織サンプルを効率的に用いるためには同一ロットからの複数のChIPseq解析行うには限界がある。そこで、上記プロジェクトに加えてバイオインフォマティクスにより、複数種類の細胞が混在する状態であっても、特定のヒストン修飾や転写因子の結合位置を指標として組織サンプルを用いたChIPseq解析により目的とする転写因子やヒストン修飾の挙動をランキングする手法(co-localization model)を確立した(kmaehara 2012 Nuceic Acid Reseach)。当初計画していた手法を補う形で更に発展的な解析が可能となり研究を進めている。また、3C-seqを用いた解析についても査読者の評価を踏まえて4C-seqを導入し解析することで、従来より更に高解像度での空間近接情報の抽出が可能になった。また本手法は本年度予定していた生化学的なChd2結合因子の探索において候補分子を予見するのに大きく貢献し研究の進捗スピードを飛躍的に高めている。以上より当初計画より大幅な進捗があると考えている。
今後は、引き続き、ゲノムマーキング、ジーンクラスタリング形成誘導に関わる分子同定をすすめる。現在までに明らかとなった骨格筋分化段階での遺伝子集積の情報のうち、最終骨格筋分化マーカー遺伝子座が含まれるカテゴリーがマーキングされる時期と、クラスタリングが形成される時期のサンプルを限定し、それぞれChd2抗体アフィニティカラムを用いてジーンクラスタリング関連因子の探索と同定を試みる。また、当初計画に加えてヒストンそのものについても着目しH3.3に対するモノクローナル抗体を用いてアフィニティカラムを作製し精製を行った後、網羅的な質量分析により、結合タンパク質の同定も試みる。抗体アフィニティカラムを用いた複合体同定法は、ルーチンに行っており、系のセットアップの必要はない。Chd2、H3.3そのものは特異的なDNA結合モチーフを持っておらず、何らかキャリアーを必要とすることから、各カテゴリー特異的なキャリアーが同定できる可能性がある。上記にて分子が同定された場合、ゲノムに効率よく挿入されるトランスポゾンtol2システムをもとに構築したmiRNAにより標的分子の発現抑制を行うベクター作成し、これを発生段階のマウスに導入することでin vivoでの機能評価を試みる。現在miRNAのみならずTALENやCRISPRの導入も着手しておりより効率のいい実験デザインの選択を進める。
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