研究課題/領域番号 |
23310137
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古川 洋一 東京大学, 医科学研究所, 教授 (20272560)
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研究分担者 |
池上 恒雄 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (80396712)
山口 類 東京大学, 医科学研究所, 講師 (90380675)
山口 貴世志 東京大学, 医科学研究所, 助教 (50466843)
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キーワード | 大腸癌 / ゲノム / 疾患関連遺伝子 / ヒストン / メチル基転移酵素 |
研究概要 |
以前の研究において、我々は大腸がんや肝がんで発現亢進しているSET and Mynd domaincontainingprotein(SMYD3)が、がん細胞の増殖に関与していることを明らかにした。しかし、その詳細なメカニズムは不明であった。本研究では、次の3つのアプローチで研究を展開した。1)まずSMYD3の生理的な役割を明らかにするために、,ゼブラフィッシュを用いた解析を行った。2)他の腫瘍の発生における役割を明らかにするため、HTLV-1ウイルス感染からの成人T細胞白血病(ATL)発症過程における役割を解析した。3)大腸がん細胞における役割を解明するために、SMYD3を特異的に抑制するsiRNAを複数合成し,その効果によって発現変動する遺伝子群を同定した。この解析の為に、インシリコ解析によるパスウェイ推定アルゴリズムを用いて検討した。これらの研究の結果、ゼブラフィッシュを用いた解析ではSmyd3はその発生過程で、心臓および骨格筋の形成に関与していることが明らかとなった。すなわちSmyd3をモルフォリーノで抑制すると、心嚢水腫や体幹の屈曲を生じた。この骨格筋の発達異常においては、MyoDの発現異常が認められた。HTLV1感染によるATLの発症では、SMYD3がHTLV-1ウイルスタンパクであるTatと結合し、その細胞内局在とNF-kBシグナルの活性化を増強することが示された。この発見は、SMYD3が大腸がんや肝がんのみならず、ウイルスによる発がんに関与することを示唆している。siRNAを用いた発現解析によって、SMYD3が発現制御する多数の遺伝子群を同定した。これらの情報をもとにパスウェイ推定アルゴリズム解析を行い、SMYD3がEGFR-RasシグナルやNF-kBシグナルなどに関与していることを示した。これらの成果は、今後のSMYD3の機能や発がんメカニズムの解明、新規治療法の開発に役立つものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SMYD3により調節される遺伝子群が明らかとなり、重要と思われるパスウェイの候補も同定できた。さらに他の腫瘍における役割、発生において調節されている候補分子なども見つかっており、今後はそれらの確認を行いながら機能解析が進められる状況に達した。
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今後の研究の推進方策 |
SMYD3に対するsiRNAを用いた発現解析と、パスウェイ解析により推定されたシグナル伝達経路、およびATLでSMYD3とTatとの結合により増強されたNF-kBシグナルが、大腸がんや肝がんでも同様に制御されているのか、レポーターアッセイ等を用いて検討する。 さらに影響を受けるシグナル伝達の中で、細胞の生存、増殖、運動などの機能に着目し、表現型の検討を行う予定である。
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