研究課題/領域番号 |
23310137
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古川 洋一 東京大学, 医科学研究所, 教授 (20272560)
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研究分担者 |
山口 貴世志 東京大学, 医科学研究所, 助教 (50466843)
池上 恒雄 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (80396712)
山口 類 東京大学, 医科学研究所, 講師 (90380675)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ゲノム / 大腸がん / 疾患関連遺伝子 / ヒストン / メチル基転移酵素 |
研究概要 |
以前の研究において、我々は大腸がんや肝がんで発現亢進しているSET and Mynd domain- containing protein (SMYD3)が、がん細胞の増殖に関与していることを明らかにした。しかし、その詳細なメカニズムは不明であった。平成24年度は、1)まずSMYD3抗体を用いたChIP on chip解析により、SMYD3が対象に比較し2倍以上濃縮したゲノムの4070領域を同定した。さらに2)ChIP on chipのデータと、SMYD3により調節を受けている1543種類の遺伝子群のデータを統合し、SMYD3がゲノムへ結合して調節している110種類の遺伝子群を同定した。3)これらの遺伝子群について、インシリコによる機能推定を行ったところ、統計学的有意差のある上位10種類のプロセスの中で、8種類は細胞周期または細胞分裂に関係するものであった。KEGG Pathwayを用いた検討においても、細胞周期と有意な相関が認められた(p=0.036)。これらの結果は、SMYD3が細胞周期の重要な制御因子であることを示している。これら110種類の遺伝子群の中で、特に重要と思われる複数の遺伝子について発現変動の確認と、転写調節領域へのSMYD3の結合を検証中である。またMetaGP profilerを用いた制御転写因子予測では、SMYD3の下流遺伝子群を特異的に制御する転写因子が126種類予測された。SMYD3はこれらの転写因子と協調して細胞周期を制御していることが考えられた。今後、SMYD3による細胞周期・細胞分裂制御における主要分子の同定と、その発現調節機構を明らかにする予定である。これらの成果は、今後のSMYD3の機能解明や発がんメカニズムの解明、新規治療法の開発に役立つものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SMYD3により発現が調節される遺伝子群と、今回同定されたゲノムへの結合領域の統合解析から、SMYD3が細胞周期・細胞分裂を制御するという新たな機能が示された。このことは、がん細胞においてSMYD3発現が増加していることに合致する。またこの機能に関わる主要分子が同定されれば、SMYD3が関わるがん化のメカニズムが明らかとなるとともに、新たな治療法開発に役立つものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きSMYD3がゲノムに結合して直接制御する遺伝子群の中から、主要な役割を演ずる分子を同定する。具体的には、SMYD3に対するノックダウンにより発現が発現が変化するかどうか確認するとともに、その発現調節領域にSMYD3が結合するかどうかChIPアッセイにより解析する。さらにその領域のヒストン修飾が変化しているかどうか、ヒストン修飾を特異的に認識する抗体を用いたChIPアッセイで検討する。 加えて遺伝子発現を制御する転写因子の同定と、詳細な発現調節メカニズムの解明を試みる。配列から予測される転写因子や、インシリコ解析で予測された転写因子が、その遺伝子発現に影響を及ぼすかどうかsiRNAを用いた解析で調べる。 これら制御遺伝子群の中から、発現抑制すると増殖が阻害できる分子を探索する。すなわちノックダウンにより増殖の阻害ができるかどうか、in vitroで検討し、抑制されればin vivoの検討も考慮する。 これらの解析により、SMYD3ががん細胞の細胞周期や分裂の調節に与えている影響とその 機序を明らかにできるものと考えられる。さらに新たな治療候補分子が同定されることも期待される。
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