生命進化の歴史の中で,原核細胞(古細菌と真正細菌)から真核細胞への進化は,分子のレベルで見ると,生命の誕生に次いで最も飛躍的で神秘的な過程である.タンパク質合成系は,細胞の構成成分を必要なときに必要なだけ合成し供給する,細胞にとって最も基本的な分子システムである.ところが,真核細胞のタンパク質合成系を,真正細菌でありもっともよく研究されている大腸菌のタンパク質合成系と比較すると,お互いに大きく異なっていることがわかる.真核型タンパク質合成系の詳細が解明されるとともに,原核型からの飛躍的な進化がどのように起きたのかに関する謎を解き明かす鍵が得られることを期待して,本研究では,真核生物であるコムギのタンパク質合成系を,その構成成分から部分的に再構成しながら理解することを目指した. 当該年度は,単離されたアミノアシルtRNA合成酵素(20種ある)の試料を可能な限り揃えること,翻訳開始因子eIF2を効率よく単離精製する方法を検討すること,および,翻訳開始因子eIF2Bを大腸菌で大量合成する方法を検討すること,の3つを中心に研究した.また,そのために大腸菌で複数のポリペプチド鎖を能率よく共発現させる方法が必要であったので,それのためのベクターシステムを整えた.その結果,当該ベクターに導入したeIF2の3つのサブユニットとフォールディングを補助するとされるタンパク質のうち2つずつを共発現させることができた.4つの同時発現を試みたところそのうちの1つの発現が弱いことが判った.eIF2Bについても5つすべてのサブユニットを単独で発現することまではできた.アミノアシルtRNA合成酵素については,全体の3分の2程度のものについては発現することがわかったが,事前の予想に反して可溶性にならないものが多いことが判り,その原因がほぼ突き止められた.
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