本研究は神経再生医薬に結びつく化合物,あるいは神経幹細胞の増殖・分化メカニズムを解明しうる有用化合物を,天然物を軸とし発見,創製することを目的としている.本研究は,次の①~③の三つの研究軸を柱に包括的な天然物ケミカルバイオロジーによる神経再生化合物の発見・創製に取り組んでいる.主な成果は以下の通りである. ①天然物様化合物の創製:標的骨格のひとつである当研究室で単離した新規天然物Fuligocandin Bの誘導体を高い光学純度で種々,合成した.また,以前,開発していた効率的合成法を用いてヘテロ環を有するフラボノイドの種々誘導体を合成した.シクロペンタベンゾフラン骨格を有する新規ヘテロ環含有シクロペンタベンゾフラン天然物誘導体の合成に成功した.2種のロカグラミド天然物の全合成に成功した. ②タンパク質アッセイ法の開発による活性化合物の発見・創製:神経幹細胞の分化に関わる転写因子Hes1担持ビーズを用いる迅速的天然物探索法により,Hes1に結合する天然物を数種単離・構造決定した.得られた天然物の詳細な活性の解明を行った.Hes1二量体を阻害する化合物で神経幹細胞の分化を促進する世界初の化合物であることを明らかにした. ③細胞を用いたbHLH因子転写活性アッセイ法の構築による活性化合物の発見・創製:Notch-Hes1経路を標的とした細胞を用いるスクリーニングアッセイ系の構築に成功し,当研究室保有の天然物が活性を示し,神経幹細胞の分化を活性化することを見いだした.また,活性型bHLH転写因子の一つであるNgn2のプロモーター活性評価系を構築し,Butea superbaから21種のNgn2プロモーター活性化剤を単離し,そのうち1種に神経幹細胞の分化活性化能を見いだした.
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