研究課題/領域番号 |
23310156
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大栗 博毅 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80311546)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 多様性指向有機合成 / 天然物 / 骨格多様化 / アルテミシニン / アルカロイド / 短段階合成 / 生合成模倣 / 化合物ライブラリー |
研究概要 |
本研究では抗マラリア剤アルテミシニン、多環性インドールアルカロイドを取り上げ、複雑で高度に官能化された天然物の構造を簡略化することなく“構造モチーフを多様化して系統的に合成する化学”の具現化と体系化を図る。 元素置換戦略によるアルテミシニンの迅速合成:6位不斉炭素を窒素に置換する分子設計により、(1)柔軟な構造多様化が可能な迅速合成(<5工程)(2)水溶性・薬物動態の改善(3)ハイブリッド分子群の創製を実現する。9-デメチル-6-アザ-アルテミシニン(ラセミ体)を3種類の構築ブロックの連結から僅か4工程で合成することに成功した。 テルペンインドールアルカロイド生合成における骨格構築機構を踏まえ、共通の環化前駆体から天然/非天然型多環性骨格群を系統的に作り分ける分岐型の合成プロセスを開発している。まず生合成を模倣した分岐型[4+2]環化で、イボガ/アスピドスペルマ型骨格をそれぞれ構築した。次に、上記と異なる様式の[4+2]型環化でアンドラギニンの五環性骨格を立体選択的に構築することに成功した。さらに、中間体に共通するジヒドロピリジン部位を二電子/一電子酸化条件でそれぞれ活性化すると、ピリジニウム塩/炭素ラジカル中間体を経由したと推定される分子内環化が進行し、ヌゴウニエンシン型骨格と非天然型骨格をそれぞれ立体選択的に合成した。 二つの共役ジエンが近接する環化前駆体を安定化する分子設計と官能基選択的な活性化による環化様式制御法を基軸として、イボガ/アスピドスペルマ型骨格のみならず、アンドラギニンやヌゴウニエンシン型骨格を系統的に迅速合成(6-8工程)した。更に生合成模倣[4+2]型環化で構築した3種類の骨格から、天然物ビンカジフォルミン、アンドラギニン、カサランチンの全合成を達成し、本合成プロセスの有用性を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルテミシニンの骨格を窒素に導入する分子設計を基盤として、水溶性を向上させた6-アザ-アルテミシニン群(ラセミ体)の迅速合成ルートの開発が着実に進展している。窒素の特性を利用した多成分連結反応で3種類の構築ブロックを一挙に連結し、低原子価金属を活用する環化で、ピペリジン骨格を立体選択的に構築した。さらに、シリル基の転位を伴うオゾン酸化でペルオキシドを導入し、現在までに、3種類の構築ブロックの連結から僅か4工程で9-デメチル-6-アザ-アルテミシニン(ラセミ体)を合成することに成功した。また最近、合成したアザ-アルテミシニン誘導体が有望な抗感染症活性を発現するという予備知見を得た(特許出願済)。 テルペンインドールアルカロイド生合成機構を踏まえ、共通の環化前駆体から天然/非天然型多環性骨格群を系統的に作り分ける分岐型の合成プロセスを開発している。窒素の保護基を使用せずに多官能性分子を直裁的に合成するため、まずインドール2位の触媒的直接ビニル化反応を開発した(Org. Biomol. Chem. 2012)。反応性に富む2つのユニット(ビニルインドールとジヒドロピリジン)が近接する鍵中間体の合成は難航が懸念されたが、カチオン性銅触媒を活用した独自のジヒドロピリジン構築法(投稿準備中)を開発して突破口を拓いた。現在までに共通の鍵中間体を安定化しつつ、官能基・位置・立体選択性の高い分子内連続環化を実施するアプローチで多環式骨格のバリエーション(5系統)を創出することに成功した。さらに、3種類の天然物を全合成し、カサランチンについては不斉全合成を達成した。概ね研究構想の具現化に成功し、現在詳報を国際一流誌へ投稿直前の状況である。
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今後の研究の推進方策 |
アルテミシニン関連研究:本年度は、構築ブロックの効率的合成、触媒的不斉三成分連結反応、ペルオキシド架橋導入法を重点的に検討し、現実的なコストでアザ-アルテミシニン群を不斉合成する短段階プロセスを開発する。さらに、窒素原子に様々な機能性ユニットを連結したアザ-アルテミシニンライブラリーを構築する。国内共同研究で抗感染症活性を評価し、構造活性相関と作用メカニズムについての知見を蓄積する。 インドールアルカロイド関連研究:独自に開発したジヒドロピリジン環構築法の適用範囲の調査と新規分子構築法開発への応用が現在進行中である。また最近、ビニルインドールを導入する新手法を見出したので、トリプタミンから鍵中間体を合成するルートを更に短縮し、収率を最適化する。また、イボガ型骨格構築の際には、分子内水素結合が環化様式制御に重要な役割を担うことが強く示唆されたので、他の系についても環化の制御機構について更に検討を加える。光反応や種々の遷移金属触媒を活用したタンデム型環化反応を実現し、多環性天然物群の骨格や立体化学を合理的に多様化する合成プロセスの拡張と合成戦略の体系化を鋭意検討する。
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