研究課題/領域番号 |
23310158
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
長澤 和夫 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10247223)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | グアニン四重鎖 / テロメア / 結合タンパク質 / DNAマイクロアレイ / テロメスタチン / 蛍光プローブ |
研究概要 |
我々はこれまでに、天然物テロメスタチンをリードとした誘導体類(6OTD, 7OTD)を報告しており、7OTDがDNAの高次構造であるグアニン四重鎖へ強力かつ選択的に結合することを見出している。本研究では、開発した7OTDへ蛍光団を導入した蛍光プローブの合成を行い、DNAマイクロアレイへ応用することで、未同定のグアニン四重鎖をスクリーニングする手法の開発を目指した。 まず蛍光団として、Cy5を7OTDへ導入し、グアニン四重鎖蛍光プローブを合成した。この蛍光プローブに対し、グアニン四重鎖に対する相互作用能を評価した結果、合成した蛍光プローブは既存のグアニン四重鎖へ強力にかつ選択的に結合することを見いだした。これより本蛍光プローブが未同定のグアニン四重鎖のスクリーニングへ適用可能であると判断し、DNAマイクロアレイを用いたハイスループットスクリーニング実験を行った。なおDNAマイクロアレイとして、バイオインフォマティクスによりグアニン四重鎖が多数存在することが示唆されている領域を含む、CpG islandsマイクロアレイを用いた。DNAマイクロアレイ実験の結果、蛍光シグナル値が高いDNAプローブを、グアニン四重鎖を形成する配列として、約2,000配列同定することができた。選出したプローブが、確かにグアニン四重鎖であることを確認するため、従来法により評価した。その結果、今回同定した約2,000配列からランダムに選出した10配列はすべて上記手法により、グアニン四重鎖を形成していることが確認された。また、グアニン四重鎖に結合するタンパクを同定するためのリガンドとして、6OTDの新規二量体を開発し、より細胞内を模倣した、長鎖テロメア四重鎖への結合を評価した。さらに今回開発した新規二量体は、対応する単量体に比べ、より低濃度で長鎖テロメア四重鎖へ結合することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グアニン四重鎖はDNA高次構造の一つであり、様々な遺伝子調節領域に高頻発しているため、ゲノム規模で遺伝子の発現を司る分子スイッチとして機能していることが示唆されている。また、グアニン四重鎖は癌の発生や増殖、転移に関与することが報告されているが、ゲノム中にはまだ未同定の癌関連グアニン四重鎖形成配列が多数存在し、その位置、配列、詳細な機能については不明である。以上の背景をもとに、我々はグアニン四重鎖を安定化する低分子リガンドの新規誘導体を用い、CpG islandsから新たなグアニン四重鎖形成配列の同定を開発することに成功した。今回同定したグアニン四重鎖形成配列は、様々な生物学的プロセスに関与していることが示唆されており、当該配列が遺伝子発現制御を担っている可能性が高い。また今回開発した、DNAマイクロアレイを用いるハイスループット手法は、その他のDNAマイクロアレイへ適用可能であり、任意の部位でのグアニン四重鎖形成の探索に極めて有効であり一般性がある。また、通常鎖状との動的平衡にあるグアニン四重鎖を、今回開発した新規二量体を用いることで、対応する単量体に比べ、より有効に安定化することにも成功している。本リガンドは上記で同定した新規配列に対し結合するタンパクを探索する際に有効なアプローチとなる。また、より細胞内を模倣した長鎖テロメアDNAにおいて形成されるグアニン四重鎖を有効に安定化することも示された。上記結果より、次年度以降の新規グアニン四重鎖形成配列に対する結合タンパク質探索に向けての研究基盤を築くことができた。 以上の成果は、当初の計画を十分に達成した成果であり、計画通り進行している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ゲノムワイドなグアニン四重鎖の同定 我々はこのグアニン四重鎖に対する蛍光プローブをDNAマイクロアレイへ適用し、アレイ上での蛍光検出を行うことで、ハイスループットな新規グアニン四重鎖探索法を開発した。しかしながら、この手法ではマイクロアレイ上に担持できる配列数に限界があり、全ゲノムを網羅するためには大量のタイリングアレイを必要とする問題点がある。この問題を解決するために、全ゲノムから一挙にグアニン四重鎖形成配列を分離、同定する手法が必要である。そこで今年度はビオチン化した新規グアニン四重鎖リガンドを開発し、これをアビジンビーズへと結合させることで、グアニン四重鎖特異的なカラムを作製する。このカラムに対し断片化したゲノムDNAを通すことでグアニン四重鎖形成配列を分離する。分離されたグアニン四重鎖形成配列は変性により溶出させたのち、次世代シーケンサーを用いてシークエンシングを行い、グアニン四重鎖形成配列の同定を行う。 (2)新規グアニン四重鎖形成配列に対する結合タンパク質の精製と同定 新規グアニン四重鎖形成配列を見いだすことができたので、これらに対する結合タンパク質の同定を以下の通り行う。1.新規配列をビーズに固定化する。2.我々の開発したリガンドを用い、グアニン四重鎖形成配列と相互作用させ、 グアニン四重鎖構造を安定化させる。3.細胞より抽出した抽出液を、上記で作成するアフニティカラムに通すことで、標的とするグアニン四重鎖と結合するタンパク質を精製し同定する。これらの実験を、グアニン四重鎖を形成しない変異DNAとの比較、リガンドの有無や、異なるリガンド種との比較を行うことで、真にグアニン四重鎖と結合するタンパクを同定する。
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