研究課題/領域番号 |
23310171
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
津田 栄 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 上級主任研究員 (70211381)
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研究分担者 |
近藤 英昌 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 主任研究員 (80357045)
西宮 佳志 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 主任研究員 (00357716)
坂下 真実 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 主任研究員 (20357099)
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キーワード | 細胞保護 / ペプチド / 分子構造 / 不凍タンパク質 / 氷結晶結合 / 脂質二十膜 |
研究概要 |
本研究の目的は、水溶液中の細胞の生存率を高める新規物質である”超強力細胞保護ペプチドCPP”の機能発現メカニズムを解析し、CPPの応用技術を開発することである。CPPは一般には不凍蛋白質(Antifreeze Protein, 略称AFP)と呼ばれ、氷結晶の表面に結合して水溶液の凍結を妨げる機能を有している。すなわちCPPは細胞表面にある水分子の凍結を阻害することで細胞の生存率を高めると推察される。本事業においてはCPP量産手法の開発、CPPの分子構造機能解析(顕微鏡+X線法+NMR法)、CPP細胞保護試験を実施する。 H23年度は本事業で行う全ての研究と開発に必須となるCPPの大量生産技術の開発に注力した。これと平行して、CPPが氷結晶や細胞幕膜に結合するメカニズムを解析するための実験システム並びに肝臓由来細胞HEPG2やマウス膵島細胞RIN5Fの初代培養細胞を得るための実験システムを構築した。CPPとして、魚類I型、II型、III型に分類されるAFP(AFP1~IIIと略)並びに菌類ベータらせん型AFP(菌類AFPと略)を用いた。いずれのCPPについても天然物と遺伝子組換え物の両方を生産するための精製技術を開発した。更に、AFPI、AFPIII、および菌類については大腸菌による遺伝子組換え物を大量発現するための技術を開発した。いずれも1Lあたり10~600mgと非常に高い収率を得るに至った。またAFPIIIと菌類AFPの結晶化に成功し、また最少培地を用いたAFPIとAFPIIIのNMR測定試料(13C/15Nラベル試料)の作製にも成功した。予備的なX線回折実験とNMR実験を開始し、これらCPPの分子構造情報の取得を開始した。付加価値の高い卵細胞をCPPを用いて長期冷蔵保存する技術を特許出願した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定よりも多い6種類のCPPの量産技術を開発できた。特に、本事業開始前は日本産魚類の筋肉すり身からAFPI、AFPII、AFPIIIの約50%純度の粗精製品を生産するのみであったが、いずれの95%高純度品も生産可能になった。更に、AFPIIIと菌類AFPについては結晶化に成功した。またAFPIとAFPIIIのNMR測定試料(13C/15Nラベル試料)の作製に成功した。市販細胞(ヒト肝臓細胞HEPG2とマウス膵島細胞RIN5F)の培養には経験不足から困難を伴ったが、平成23年度内にこれらの初代培養細胞を安定的に準備するシステムを構築でき、CPP存在下での生存率の時間依存性を調べる基礎を確立できた。特に、いずれの細胞もCPPが無い溶液中では約24時間後に死滅することまでを統計的に確かなレベルで明らかにできた。付加価値の高い卵細胞をCPPを用いて数日間冷蔵保存する技術の特許出願をした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験により取得された複数種類・十分量のCPPサンプルを用いて、その細胞レベル~分子レベルでの機能発現メカニズムを詳細に解析する。細胞レベルでは、蛍光標識したCPPと細胞の相互作用を共焦点レーザー顕微鏡でにより観察する。そして保存中の細胞形態を経時観測する。また大腸菌発現系により調製した種々のCPPの13C/15N標識体ならびにCPP結晶に対してNMRおよびX線法による構造解析を試みる。またNMR法を分子レベルでのCPPの挙動を解析する。ヒト肝臓細胞HEPG2とマウス膵島細胞RIN5Fは、いずれもCPPが無い溶液中では約24時間後に死滅する。CPPがこれらを何日間まで生存させられるかを明らかにしたい。
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