研究課題
本研究の目的は、水溶液中の細胞の生存率を高める新規物質である”超強力細胞保護ペプチドCPP”の機能発現メカニズムを解析し、CPPの応用技術を開発することである。CPPは一般には不凍蛋白質(Antifreeze Protein, 略称AFP)と呼ばれ、氷結晶の表面に結合して水溶液の凍結を妨げる機能を有している。すなわちCPPは細胞表面にある水分子の凍結を阻害することで細胞の生存率を高めると推察される。本事業においてはCPP量産手法の開発、CPPの分子構造機能解析(顕微鏡+X線法+NMR法)、CPP細胞保護試験を実施する。昨年度までに作製した種々のCPPサンプル(NMR実験用の13C/15Nラベル化CPPを含む)についてX線回折法と多次元NMR法による3次元分子構造解析を行い、得られた成果を国際誌等に発表した。特に、世界初となった菌類CPP構造機能解析の論文は米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載するに至った。このCPPの分子表面には複数の結合水が不規則に配置している事を明らかにし、これらが細胞表面にある水分子と一体化する新たなCPP機能発現メカニズムを見い出した。多次元NMR解析によって魚類CPPにおいても同じ結合水の存在が示唆され、FEBS LettersやJBNMR誌等に発表した。また、ウシ受精卵を対象としたCPP細胞保存技術の実証試験を全農ET研究所の協力を得て開始した。まずはCPPを含まない状態で受精卵の寿命を最大限に延ばす溶媒成分を精査して199培地、血清、HEPESの3成分だけでも受精卵を7日間も冷蔵できることを突き止めた。この成果をNature誌のScientific Reportsに論文掲載した。これらの成果は国内外の学会やセミナーで発表し、またホームページ等でも幅広く紹介した。
1: 当初の計画以上に進展している
本事業における重要目標の一つはCPPの3次元分子構造を解析し機能相関を解明することである。本年度では、菌類が有するCPP(AFP)の分子構造をX線法を用いて決定することに世界で初めて成功し米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載するに至った。また、CPPを含まない状態で受精卵の寿命を最大限に延ばす溶媒成分を精査し199培地、血清、HEPESの3成分だけでも受精卵を7日間も冷蔵できることを明らかにし、Nature誌発刊のScientific Reportsに論文掲載するに至った。いずれも高インパクトの研究成果であり、この研究の重要性と社会からの期待度の高さを示すと考えている。研究代表者らがこれまでに得た膨大なデータの蓄積に支えられている事で本事業は非常なスピード感をもって良く進捗していると言える。
H24までの研究により、複数のCPPの3次元構造が分子レベルで明かにされた。また、非凍結温度(4℃下)でウシ受精卵細胞を発生を止めたまま最大限に(7日間)延命させる”CPPを含まない細胞保存液”を開発した。そこでH25年度ではCPPの機能予測部位にアミノ酸置換を行い、得られた変異体に対する構造機能解析を進める。その結果に基づいてCPPのどの部位が機能を発揮するのかを解析する。また、CPPを含まない状態で最もウシ受精卵を延命させた199培地、血清、HEPESの3成分だけから成る細胞保存液にCPPをプラスして、受精卵の冷蔵保存期間の10日間までの延長を試みる。このようにしてCPP細胞保存技術を作製する。
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