研究課題/領域番号 |
23310190
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研究機関 | 大阪学院大学 |
研究代表者 |
渡辺 千香子 大阪学院大学, 国際学部, 准教授 (40290233)
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研究分担者 |
内田 悦生 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40185020)
辻 彰洋 国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (40356267)
本郷 一美 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (20303919)
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キーワード | 古環境 / メソポタミア / 粘土板 / 塩害 / 珪藻 / 砂漠化 / 国際研究者交流 / イギリス:アメリカ:イラク |
研究概要 |
本研究の目的である「塩害・砂漠化の視点から構築する古代から現代に至るイラクの環境史」に沿い、古環境復元のため、主な海外調査(粘土板分析)を2回おこなった。1回目は、エール大学収蔵の粘土板について、ウル第三王朝時代の粘土板約150枚を出土地・時代別に10グループに分け、携帯型蛍光X線分析による化学組成分析ならびに帯磁率を測定し、表面に鉱物が析出している粘土板の鉱物同定を行った。これにより従来「謎」とされてきた粘土板表面の黒いシミの正体が明らかになった。また化学組成分析から粘土板の素材の供給源が2種類に分けられることが判明した。2回目は大英博物館収蔵の粘土板から、ウル第三王朝時代のウンマ・ラガシュ由来の99枚を選び、顕微鏡による表面観察を行った。その結果、珪藻その他の植物遺存体が内部の粘土に含まれる事実を確認した。また23枚の粘土板からサンプル採取許可を得ることができ、今後の珪藻の種の特定に向けて大きな進展が期待される。 現代塩害の研究のため、海外共同研究者M.アルタウィール博士を招聘し、現代イラクの塩害に焦点を当てた研究会を7月に開催した(会場:早稲田大学)。衛星画像を使った調査で解析できる土壌環境について、共同で研究を進めるための意見交換を行った。古代塩害の文献調査については、ウィーン大学のゼルツ教授と初期王朝時代の塩害関連文献について具体的な共同研究内容を協議し、MOUを交わした。 国内のメンバーによる研究会は年3回開催した(4・7・3月)。第3回目の研究会では、各自の研究成果報告の他、H.オレイビ氏による「イラクの遺跡ウム・アル=アカリブ」の講演を公開で行い、将来イラクで行う調査の可能性を議論した。また本研究の広報.学会活動として、国際アッシリア学会(7月:ローマ大学)・イラク国際考古学会議(11月:エルビル・サラバッディン大学:招待講演)の席上で研究概要の口頭発表を行った他、研究活動のニュースレターを年2回(8月・3月)発行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
古環境復元のカギを握る粘土板の物理・化学・生物分析が計画通り遂行され、また大英博物館から生物指標分析のためのサンプル採取許可を得られたことは、今後、大英博物館との共同研究を進める上でも画期的な進展といえる。海外共同研究者との研究において、現代塩害の研究ですでに論文1本が学術誌に受理された意義は大きい。また古代塩害の文献研究について、研究内容を具体化し、論文投稿時期について合意した。この意味で、本研究のプロセス自体を国際化し、本研究を真に国際的なインパクトの強い研究として位置付ける目標の基礎が築かれたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度初頭に始まったシリアの治安悪化に伴い、当初予定していたシリアの遺跡テル・ブラクの調査は、当分の間、不可能となった。その対応策として、且.オレイビ氏の協力のもと、イラク南部の土壌サンプルを入手して、それに対して粘土板と同様の分析を行うことを検討している。またイラクでも比較的治安の安定しているクルド自治区において現地調査をおこなうべく、調査申請書をイラク当局(クルド自治政府の考古局、ならびにバグダッドのイラク考古総局)に提出する。
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