研究課題
われわれの事業期間全体である4年間の計画では、平成25年度に第二レベル、26年度に第三レベルのロボットの制作を行うこととしている。平成25年度は、第一レベル・ロボットに「情動」の要素を組み込むことによって、第二レベル・ロボット作成へと着実に前進したと言える。その成果は、平成25年8月1日、The Annual Meeting of the Cognitive Science Society 2013, Humboldt University (Berlin)において発表された。ここで得られた注目すべき結果は、相手(複数の被験者)の情動表現から対象分類の内的カテゴリー(としての情動状態)を独自に形成するほどに、内部メカニズムが複雑になればなるほど、ある面で共同注意のパフォーマンスは効率的でなくなる一方で、ロボットに対する被験者の印象は、「機械的・自動的」というものから「人間的・自律的」といったものに変化していくことが確かめられたことである。これは人間の幼児に見られる認知発達上のU字曲線になぞらえることができる、とわれわれは解釈している。この点に関するさらに進んだ研究結果は、「少し従順でないロボット」を相手に被験者の側の「主観評価」の変化を観察する形で、平成25年12月8日、HAI(Human-Agency Interaction)2013シンポジウム(岐阜大学サテライトプラザ)で発表された。これは、次年度、平成26年度のロボット構築において、「情動」の役割に関する一つの重要な示唆を与えるものであった。
2: おおむね順調に進展している
この計画の最も重要な点は、「他者の意図を理解する」という要素、および「他者と意図を共有する」という要素を、それなりの仕方でロボット上に実現することである。そのために反射的共同注意の経験を蓄積する第一レベルのロボットに、「情動」の要因を組み込むことによって、第二レベルのロボット制作に着手した。そのパフォーマンス・レベルの検証過程で、内部構造がリッチになり、ロボットが「自律性」の度合いを高めていけばいくほど、単純な視線対象の一致率(意図推定の成功率)は下がるものの、ロボットの「人間らしさ」の印象は強くなることが判明した。この結果は、共同注意現象をロボット上に実現するためには内部メカニズムをリッチにして、ロボットに「情動」に基づくような<個体性>を与えることが重要である、というわれわれの仮説が基本的に正しいことを示している。したがって、第三レベルロボットの手始めとして、個体性をもつ「情動」ロボット制作の実現見込みから、われわれは自分たちの現在の達成度を、②「おおむね順調に進展している」と判断した。
われわれは今年度、「情動」要素を組み込んだ第二レベル・ロボットに各ロボットごとの共同注意経験を組み込んだ<個体性>をもつロボットを第三レベル・ロボットの原型として作成し、それに対する被験者の「主観評価」を今以上に厳密に測定した実験結果を、7月のThe Annual Meeting of the Cognitive Science Society 2014,Quebec City(Canada)で発表する予定である。今年度が課題研究の最終年度であることから、われわれは、このロボットのパフォーマンスもってわれわれの最終成果とし、われわれの基本方針に対する外部の評価を求める予定である。それと同時に、人類社会における意図の社会的進化とその哲学的意義の分析に関しては、やや積み残した感があり、この点を検証しながら、「自律的な」意図的主体性をもつ、より高次の第三レベル・ロボットの構築を目指して、次期の科研費課題研究に向けた準備を遺漏なく進める予定である。したがって、今後の研究は、本研究の検証を踏まえ、よりパワーアップした布陣で次期の課題研究へと発展展開される見通しである。
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