研究概要 |
平成23年度は,『アングッタラ・ニカーヤ』全5巻のうち第1巻-第2巻の電子化テキストの校正を行った。訂正を要する箇所を多数指摘し,全体の再校訂へ向けて問題点の検討を行った。この際,先行するパーリ語による初期仏典『ディーガ・ニカーヤ』『マッジマ・ニカーヤ』『サンユッタ・ニカーヤ』索引作成研究で得た知見を最大限に活かし,全編に統一的な方針を確立すべく検討を進めている。また,現段階のデータに基づく索引を作成中であり,その結果の索引チェックを予定している。なお新たな知見は,現在進行中の新パーリ語辞書制作に資するため,PTSに提供する。24年度-25年度に予定する作業と併せて本経典の索引が完成すれば,パーリ仏教の四ニカーヤ索引が完備し,古代インド思想史・初期仏教・中期インド語研究の領域に多大な利益をもたらすことになる。 我々は索引作成の支援ツールとして韻律解析プログラムを開発運用してきたが,この研究の一環として本年は『法華経』に含まれる詩偈(韻文)部分の詩脚正順索引を作成し,中央学術研究所より出版した。『法華経』は,代表的な大乗経典のひとつであり,仏教混淆梵語で書かれている。特に韻文部分は古層に属し,言語学的に解決されるべき問題をも多く含む。経文の貸借・並行関係を解明して各経典間の思想史的位置関係を探ることもおこなわれる。本索引は,中期インド語(特に仏教混淆梵語)や初期仏教から大乗仏教に至るまでの思想史的研究を行う際に,有力な道具となろう。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は引き続き『アングッタラ・ニカーヤ』第三巻・第四巻ないし第五巻の電子化テキスト校正を行う。校訂上の課題を概ね摘出し終えた時期にPTSのGethin教授または担当者のPruitt博士の来訪を仰ぎ,全体の校訂方針について討議する予定である。参考データ収集のため,他の有力なパーリ仏典の解析を行うことも考慮している。 我々は古インド・アーリヤ語韻文解析プログラムを開発,運用してきたが,『アングッタラ・ニカーヤ』はおおむね全編が散文で構成されていて本プログラムの適用に向かない。プログラムの発展のため,適切な韻文文献の電子テキストデータの提供をうけるべく模索中である。
|