古代西アジアの楔形文字文献研究では内容によって、法、宗教、政治の領域に対応するものを「契約」「誓約」「条約」と分類してきたが、当該言語にその区分名はない。本研究ではアッシリア王エサルハドンが前672年に大量発行して各地に配布した『エサルハドン王位継承誓約文書』(ESOD)を、特に近年タイナトの神殿で発見、公刊されたタイナト版を含めて精査し、ESODが条約ではなく、最高神アッシュルが調印した法的形式を持つ誓約文書であり、文書自体が神格化されていたことを示した。さらにユダ王マナセに手渡されたESODがエルサレム神殿に安置された蓋然性が高く、それが後の「契約宗教」成立に影響を与えたことを示唆した。
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