研究課題/領域番号 |
23320034
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大橋 一章 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80120905)
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研究分担者 |
李 成市 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30242374)
小野 佳代 早稲田大学, 付置研究所, 准教授 (60386563)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 美術史 / 文化財科学 / X線分析 / 表面仕上げ |
研究概要 |
本研究の目的は、わが国に現存する古代・中世の文化財(木彫像、金銅像、塑像、美術工芸品、絵画等)を取り上げ、すでに科研費で購入済みのX線機器類(X線CTスキャナー、複合X線分析装置XRDF)を活用しつつ、主としてその表面仕上げの技法を解明しようとするものである。 2012年度に実施したX線調査としては、まず第一に、奈良県飛鳥寺の釈迦如来坐像(飛鳥大仏)の2回に及ぶ調査があげられる。初回の調査は2012年7月に実施し、2回目の調査は2013年1月に実施した。初回の調査では飛鳥大仏の周囲に足場を組み、大仏の顔面から膝までの数箇所を測定したところ、従来飛鳥時代当初とされてきた箇所と、鎌倉時代以後の補鋳とされてきた箇所の元素分析において、顕著な差は認められなかった。2回目の調査では、従来補鋳とされてきた膝部を、X線回折分析(XRD)によって測定した結果、CuO (酸化第二銅)が主成分として検出された。CuOが主成分として検出されたということは、過去に強い酸化環境、つまり火災などに遭ったことを示唆している。補鋳とみなしてきた部分が果たして本当に後世の補鋳なのか、今後議論する必要があろう。 海外調査としては、5月と11月に韓国の国立慶州文化財研究所を訪れ、研究所が所蔵する出土遺物に対してX線調査を行った。さらに8月には、中国四川省の金沙遺址博物館の所蔵品に対してX線調査を実施した。 以上のX線調査の結果については、2012年9月21日(金)に早稲田大学奈良美術研究所が主催した国際シンポジウム「文化財の解析と保存への新しいアプローチIX」(於早稲田大学小野記念講堂)において報告した。2012年度の研究成果は、『奈良美術研究』14号(早稲田大学奈良美術研究所、2013年3月)にまとめ、刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は奈良県飛鳥寺の飛鳥大仏のX線調査を実施し、鋳造技法や表面仕上げの技法について多くの新知見を得ることができた。飛鳥大仏といえば、わが国で最初の金銅仏である。しかもその作者は、法隆寺釈迦三尊像の作者として著名な鞍作鳥(止利仏師)である。従来、飛鳥大仏は、造立当初においてはすべてが蝋型鋳造法によって造られたと考えられてきたため、現状の土型鋳造法による大部分は後世の補鋳部分とみなされ、当初部分はごくわずかしか残っていないと考えられてきた。しかし今回の調査によって、飛鳥当初から顔や手など肉身部分は蝋型鋳造法、その他は土型鋳造法によって造られた可能性がでてきた。飛鳥大仏の技法についても新知見が得られたといえよう。以上、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、金銅仏に限らず、木彫像や絵画、美術工芸品等のX線調査も実施していく予定である。さらに、韓国・国立慶州文化財研究所や中国・四川の博物館などの海外調査にも力を入れ、X線調査のデータを蓄積していきたい。取得したデータは、国別・時代別に整理・分析し、データ比較も行い、時代による文化財の技法の変化・変遷を検討する。また各自、データをもとに研究を進めていく。平成25年が最終年度にあたるため、蓄積したデータの公開方法を科研メンバーで検討する。また、調査・研究の漏れを入念にチェックする。研究遂行上、問題が生じれば、メンバー全員で解決方法を探っていく。 研究成果は例年どおり、国際シンポジウム「文化財の解析と保存へのアプローチ」(早稲田大学奈良美術研究所主催)や、年度末に刊行する紀要『奈良美術研究』において公表する予定である。
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