研究課題/領域番号 |
23320043
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研究機関 | 東京芸術大学 |
研究代表者 |
宮廻 正明 東京芸術大学, 大学院美術研究科, 教授 (40272645)
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研究分担者 |
古田 亮 東京芸術大学, 大学美術館, 准教授 (20259998)
荒井 経 東京芸術大学, 大学院美術研究科, 准教授 (60361739)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 文化財保存学 / 日本画 / 日本美術史 / 美術教育 / 模写 |
研究概要 |
平成24年度は前年度に引き続き、基底材の質感を伴った模写の制作技法開発に中心的に取り組んだ。壁画模写に関しては高句麗古墳壁画江西大墓および法隆寺旧金堂壁画を研究対象とし、フィルム写真や印刷図版のデジタル処理による鮮明化、壁画表面のマチエールを再現した和紙への印刷、手彩色による仕上げの技法について研究を深めることができた。高句麗壁画については天井部分を除いた石室を実物大で復元し、触れることができる文化財として平成24年3月~6月、平山郁夫シルクロード美術館にて展示、4月には公開シンポジウムを開催し200名以上の参加者が集まった。また、壁画複製の課題のひとつである機動性の解決の試みとして、同壁画の模写を屏風形式に装丁し、移動展示や教材、室内装飾としての活用の可能性を模索した。制作した屏風については今後、展覧会等で公開していく予定である。 壁画の他には板地に描かれた絵画について平等院鳳凰堂の扉絵を研究対象とし、和紙を基底材としながら原本の板目をトレースしレイヤーとして図像部分の模写に重ねることで、質感の再現に成功した。この技法については既に特許を出願していたが、平成24年12月に特許第5158891号「素材の製造方法及び絵画の制作方法、素材及び絵画、建築用材料」の名称で特許を取得した。 外部機関との交流としては、文化財の科学調査技術および分析機器の視察、意見交換のため、平成25年1月に吉備国際大学を訪問した。また、2月には敦煌研究院から樊錦詩院長ら5名の研究者を招き東京芸術大学でシンポジウムを行い、壁画模写の共同研究に向けて協定締結を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では模写の表現としての新たな価値付けを目指し、作品の質感をも再現し見る人に感動を呼び起こす模写の新技法の開発に取り組んできた。平成24年度は高句麗古墳壁画、法隆寺金堂壁画の質感を伴った複製画を制作した他、板絵の複製技術についても特許を取得し、研究は順調に進展している。また、壁画以外の絵画についても様々な基底材の質感表現の再現研究を進めており、絹、麻、その他の生地、金属箔地の絵画等について、新技術開発により模写の精度を高めることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本件では引き続き模写技術の開発と活用について研究を深める。研究対象としては敦煌石窟壁画第57窟を予定しており、敦煌研究院にも既に研究協力の合意を得ている。 平成25年度は本研究課題の最終年度に当たるため、研究の成果発表として模写作品の展覧会開催を予定している。また、「模倣と超越」をテーマに行なってきた模本資料の調査や模写史、技法書等の編纂作業、模写技術の開発などの成果として「美術の真価とはなにか」、何が美術品の価値を決めてきたのかという新たな問題提起に至った。今後研究の視野を広げるきっかけとすべく、本年度内に東西美術に関わる多分野の有識者によるシンポジウムを開催し、来年度以降の研究の基盤とする計画である。併せて、複製技術の開発研究においても日本の絵画だけでなく油彩画や立体物などより幅広い作品への応用を模索し、文化財の保存継承と新たな価値の創造につなげていきたい。
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