研究課題/領域番号 |
23320049
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
岡崎 乾二郎 近畿大学, 国際人文科学研究所, 教授 (90388504)
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研究分担者 |
辻田 勝吉 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (20252603)
後安 美紀 大阪市立大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 研究員 (70337616)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 芸術学 / 表象文化論 / 身体表現 / 技能伝達 / 美術史 / 真贋判定 / 技術論 |
研究概要 |
本研究の課題は、芸術表現の制作過程の動的分析を通して芸術表現の固有化のメカニズムを明らかにすることである。これまでに絵画主体の自覚と、実際に描いている行為過程の意識が動的過程の中で発現してくるメカニズムを明らかにしてきた。 今年度は、芸術表現の制作過程における主体性発現のメカニズムについて実証実験を行うために、ロボットを用いた主体性形成を支援するシステムを開発した。ロボットは人間の身体と自己意識を分離するための代替身体としての意味を持つ。行為主体と身体(対象)とは固定的な関係ではなく、行為の過程において動的に関わり、線画を描いているという自己意識=主体性が立ち現われてくるというメカニズムが確認できた。 一方、制作過程における自己意識・主体性と芸術様式との関係を導く関連資料の基礎調査として、イタリアへ赴き調査を行った。主目的は、エトルリアのネクロポリ遺跡、美術、建築、文化出土品および、これらの文化生産物が生み出され配置された環境および表現様式の調査である。芸術作品を事物としてではなく、それを生み出す過程そのものを再生産する、包囲環境的な機構として捉える貴重な知見が得られた。第二の目的は、最近大幅に展示施設及び、方法をリニューアルしつつあるローマの美術館、博物館の成果の特質ともいえる、既存歴史建物と美術品を一体した環境として組織し展示する事例を可能な限り実地観察調査することであり、表現法の調査として、大きな成果を得た。これらの調査により、表現(行為)は、それを表現として受け止める「場」こそが組織されることにおいて成立し、個々の事物として対象化された作品ではなく、それらの対象を対象として出現させ、着地させる過程こそを表現(メタ対象として)探求するという表現様式に関する論理は本研究における必須の知見となった。 今年度研究により、問題群が整理され、本研究の最終的主題がより明確に絞られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主たる課題は、芸術表現の制作過程の動的分析を通して芸術表現の固有化のメカニズムを明らかにすることであった。これまでに、芸術表現の制作過程において、絵画主体の自覚と、実際に描いている行為過程の意識が動的に発現するメカニズムが明らかになってきた。今年度は、これまでの研究をふまえ、主体性の形成を支援する装置製作に着手し、プロトタイプの実験装置を用いた実証実験の段階へと入った。また、同時に、主体性と芸術の関係を示す関連資料を収集し、基礎調査を終え、関連する問題群が整理された。これにより、本研究の主題がより明確に絞られ、期待される成果について大きな進展があったため、全体の研究目的達成度は標記のように判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、芸術表現制作過程における動的な分析結果からの知見を基に、主体性形成を支援する装置のプロトタイプの制作を行った。今後は、この装置を用いて、芸術表現制作過程における主体性が形成されていくメカニズムと、発現する芸術様式が固有化されていく過程を実験によって検証する。このため、今年度からは、ワークショップを開催し、系統的な条件設定をもとにした実証実験を行う計画である。この実証実験のためのワークショップは、9月ごろに国内ワークショップ、11月ごろに国際ワークショップを企画している。実証実験のための装置も、このワークショップに合わせて機能拡充を実行・計測精度を向上させ、秋のワークショップまでにはシステムとして完成を目指す。また、本研究課題の研究成果の一般への情報発信方法として、主体性の発現に関わるテーマを扱った展覧会を開催する企画を進めている。さらに今後、ここまでの芸術表現の制作過程の分析結果を踏まえ、芸術様式のさらなる詳細調査を行って、最終研究目標であった芸術表現の固有化のメカニズムを明らかにしてく。
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