本研究は、定家本伊勢物語と源氏物語の展開の様相を横断的に検証することによって、唯一の定家自筆本を復原するのではない、新たな定家本伊勢物語・源氏物語の本文形成史を構築しようとするものである。 本年度は研究期間最終年度であり、目的の一つとして掲げた『伊勢物語校異集成』の完成に向けての作業に集中的に取り組んだ。伊勢物語の本文異同状況を確認する校本として、池田亀鑑『伊勢物語に就きての研究 校本篇』(1933年)・大津有一『伊勢物語に就きての研究 補遺篇』(1961年)・山田清市『伊勢物語校本と研究』(1977年)(以下「三校本」と略称)が備わるが、今日の研究環境から見て、これらは校本としての精度が低いと言わざるをえず、また近時紹介された新出伝本のデータを組み込む必要がある。 これまでに集積したデータを整理し、真名本伊勢物語についても再調査を進めることで、2016年2月に『伊勢物語校異集成』(和泉書院、全494頁)を刊行した。同書は既刊「三校本」所収の伝本について可能な限り再調査を行い、底本の異なる「三校本」の校異を統合した上で、未収伝本の校異を追加したもので、校異篇所収伝本は141点、「三校本」の校異3400箇所あまりに修正を加えた。今後の『伊勢物語』本文研究の基盤を支える基礎資料として、学界にも寄与するところ少なくないであろう。 源氏物語に関しては昨年度新たにホームページを開設し、第一次作業を終えた巻については、『源氏物語大成』未収伝本の調査データを加えた校異を巻ごとに公開しており、今後とも引き続き作業を進めていく予定である。
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