研究課題/領域番号 |
23320063
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
岡室 美奈子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10221847)
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研究分担者 |
八木 斉子 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (10339666)
三神 弘子 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (20181860)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ベケット、サミュエル / マーフィー、トム / マクギネス、フランク / キルロイ、トマス / クッツェー、J・M / サウンドスケープ / 言語音 / 非言語音 |
研究概要 |
本研究の目的は、アイルランド演劇の総合的研究を推進するとともに、研究拠点を拡充し国際的に活躍しうる人材を育成することにある。今年度の若手支援としては、早稲田大学大学院ポスドクの景英淑をアイルランドに派遣し、ベケットの資料調査をバックアップした。 岡室は、広島大学准教授の川島健とともに、ノーベル文学賞受賞者のJ・M・クッツェー氏をはじめとする国内外の著名な研究者による論集『ベケットを見る八つの方法――批評のボーダレス』(水声社)を刊行した。世界の主要ベケット研究者が寄稿した初の日本語論集である。岡室自身は引き続き写真論、映画論、メディア論、オカルティズムの視点からベケットの後期テレビドラマと演劇について考察を進め、ケンブリッジ大学から刊行されたBeckett in Contextの’The Occult’の章を執筆した。 三神は、マーフィーの2作品、The WakeとThe Houseにおける歴史感覚に注目しつつ、“soundscape”という視点から、舞台上での音・言及される音・グラモフォンなどに代表される象徴的な音について口頭発表を行った。(於コンコーディア大学)また、マクギネスとキルロイによる、第2次大戦下のアイルランドを舞台にした2作品を取り上げ、その歴史感覚に関する論文を発表した(Journal of Irish Studies)。また、アイルランド演劇研究会を2回開催した。 八木は、サミュエル・ベケットによるラジオ劇を言語音・非言語音の観点から分析する作業を昨年度に引き続き行った。ベケット作品のメディア性を扱った文献、他の劇作家によるラジオ劇を論じた文献、表現と媒体との関わりを探った文献、音響・音声・録音諸分野で著された文献を読み込み、主張先の大英図書館では『残り火』の非商業用録音をBBC放送録音と比較した。これを基に執筆した論文は『演劇研究』に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
岡室は、昨年度の若手研究者によるサミュエル・ベケット論集の刊行に続いて、ノーベル文学賞受賞者のJ・M・クッツェー氏を含む、国内外で活躍する著名な研究者によるベケット論集『ベケットを見る八つの方法――批評のボーダレス』を刊行した。また、ケンブリッジ大学から刊行されたベケット研究書Beckett in Contextのうち1章を執筆した。 三神は、トム・マーフィー、フランク・マクギネス、トマス・キルロイといったアイルランド演劇の主要劇作家について、海外の学会に於ける口頭発表、雑誌論文の発表という形で研究成果を発表した。 八木も、年度ごとに分析対象となる作品を変え、個々の作品が持つ特徴を生かす分析方法による英語論文を学術誌に掲載するなど、それぞれが着実に研究を進展させている。 若手研究者育成の面でも、ベケットゼミやアイルランド演劇研究会の開催のほか、2011年度にベケット研究により博士号を取得した景英淑氏をアイルランドに資料調査に派遣し、新たな研究の展開を後押しするなど、積極的な支援を行った。 研究代表者、分担者ともに、国内にとどまらず国際的に成果を発信し、総合的に実り多かった年として(1)とした。
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今後の研究の推進方策 |
岡室は、引き続き演劇論やテレビ論のみならず、写真論や映画論、メディア論など近接領域を参照しつつベケットのテレビドラマと演劇を中心に研究する。これまで同様、W・B・イェイツやジェイムズ・ジョイスらアイルランドの作家からの影響の研究も継続するが、今年度はアルフレッド・ヒッチコック等の同時代映画との比較にも取り組みたい。 三神は、アイルランド演劇研究会のメンバーと、”Soundscape”というテーマで論文集を編纂する予定。昨年度、口頭発表を行った、マーフィーの演劇に見られる音に関する問題を論文にまとめ、論文集に収録する。 八木は、ベケットによるラジオ劇の台本・録音分析を今後も続行する一方で、対象をより俯瞰的・歴史的に位置づける作業を開始する。大英図書館における録音調査に際しても、20世紀の録音文化という広い視野からベケット作品を分析していく。 また、昨年度同様、ベケット・ゼミやアイルランド演劇研究会を開催して研究者間の交流とアイルランド演劇研究拠点としての充実を図るとともに、若手研究者の海外における学会発表や資料調査を支援し、若手の育成にも力を入れる。
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