研究課題/領域番号 |
23320084
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉田 和彦 京都大学, 文学研究科, 教授 (90183699)
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研究分担者 |
森 若葉 国士舘大学, 付置研究所, 研究員 (80419457)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ヒッタイト語 / リュキア語 / ギリシア語 / 印欧祖語 / アナトリア祖語 / 言語変化 / 形態変化 / 音法則 |
研究概要 |
ギリシア語-maan、ヒッタイト語-(h)hahat(i)、リュキア語-xagaという1人称単数中・受動態過去語尾は一見したところ規則的に対応し、*-h2eh2eという祖形に遡るように思える。しかしながら、これらの3つがそれぞれの言語内部の歴史のなかで二次的につくられた形式であることを明らかにした。その理由はつぎのとおりである。基本語尾*-h2eが反復される形態変化は後期ヒッタイト語の時期に顕著にみられるが、反復語尾だけでなく非反復語尾もなお存続しており、両者のあいだには機能的差異がない。もし印欧祖語やアナトリア祖語の時期に反復語尾がつくられていたとするなら、1千年以上にわたって反復語尾と非反復語尾が自由変異の関係にあったことになる。このようなきわめて進行速度の遅い言語変化は非現実的である。 うえの3つの語尾のうち、ヒッタイト語の-(h)hahaという反復語尾については、かなり正確なかたちでその先史を復元することができる。1人称単数中・受動態過去語尾*-h2eは、同じ語尾をとっていた1人称単数hi-動詞過去語尾から形式的に区別される必要があったために、前ヒッタイト語の時期に反復されるようになった。反復語尾がまず過去形につくられたことは、リュキア語の反復語尾-xagaがやはり過去形であることからも裏付けられる。反復語尾は後に現在形と命令形にも広がったが、後期ヒッタイト語の時期になっても非反復語尾を駆逐するまでには至っていない。これに対して、ギリシア語-maanの成立に関しては語尾の反復は関与していない。語末母音脱落を受けた*-h2 (< *-h2e)に対応する能動態語尾の影響が加わった*-m-h2-m (> *-maam)から、音法則によって規則的に導かれたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
整理された文献資料に基づく言語学的分析作業が進んだ結果、新たな知見を得ることができ、国際的な場で公表することができた。また国際学会で発表した論文も今後出版する予定である。以上より、おおむね順調に研究計画が進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
比較方法が祖語の再建という目標に向けてもっとも有効な方法であることはいうまでもないが、同時に限界があることが本年度の研究から明らかになった。言語間の対応に基づいて得られる言語特徴が祖語に遡るものなのか、分派諸言語内部における独立した二次的発展によるものなのかを十分に検討しながら、今後研究を推進していく必要がある。
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