研究課題/領域番号 |
23320091
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
匂坂 芳典 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70339737)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 第二言語 / 自動学習評価 / 英語能力評価 / 韻律制御 / 言語獲得 |
研究概要 |
本研究では、母語によって異なる第二言語音声の生成・知覚現象を音声科学として理解し、教育に資するため、第二言語学習者に見られる音声生成の時間制御・知覚特性分析を目的とする。本年度は、日本人学習者に加え、タイ人学習者の英語音声を用い、音声区分時間長を解析した。解析には英語教師が付与した主観評価得点と、学習者と英語母語話者の音声区分持続時間長の差との相関を用いた。第一言語によらない客観評価特徴量を見出すことをねらい、昨年の分析結果から予想された、強勢を有する音節間の時間間隔ISIについて調べた。日本人学習者、タイ人学習者計約百名の平均ISI差異と主観評価得点との相関は0.51となった。日本人学習者、タイ人学習者それぞれに対する相関値は0.21、0.66と差異が大きく、分析の結果、学習者分布が分析結果に与える影響の可能性が判明した。また、文中の各ISI差異それぞれについて、主観評価値との相関値には大きな違いがあることが判明した。主観評価と高い相関を示す数箇所のISI差異による相関値は、全体、日本人学習者、タイ人学習者それぞれ0.64、0.63、0.78に上昇することが判明し、音韻環境に対する配慮の重要性が明確となった。 また、言語による時間長制御の違いが、日本語学習者にとって学習が難しい促音の知覚について引き続き分析を進めた。本年度は、3つの話速による120単語計、360の日本語音声を用いて促音知覚の難しさのバラツキを調べた。この結果、摩擦音に比べ破裂音の難しさが定量的に示されると共に、誤答率が発話コンテキストによって大きく変わることが明らかとなった。さらに、本研究が対象とする母語による違いの分析に向けたアジア圏の英語学習者音声収集を継続し、第二言語音声DB作成と利用に関する共同研究コンソーシアムAESOPの国際ワークショップをマカオで主催し、データ共有のガイドラインを定めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本人学習者の英語音声に加えタイ人学習者音声の分析も開始でき、母語特徴に依存しない客観評価に着手できた。また、昨年度のISI分析結果と合わせ、ISIがその使用コンテキストにより客観評価との相関が大きく変化する事実から、より詳細なリズム特徴量規定の必要性が明らかとなった。特殊拍に対する韓国人学習者による日本語音声聴取実験結果の分析からも、コンテキスト依存が明確となり、こちらからも、調べる対象の絞込みが進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
研究立案時から昨年までは、第一言語の関与を明確とするために、異なった多くの第一言語を持つ音声の比較、細かな言語固有な分析といったボトムアップ的な研究を考えてきた。第一言語による類型的な分類に基づく伝統的な音声学のアプローチは、学習者音声収集とそれらの音声学的記述を必要とする。本年度に行った日本人学習者とタイ人学習者の比較検討結果は、当初予想以上のデータ量と学習者分布配慮の必要性を示唆しており、不十分なデータ下での今後の研究方法の新たな展開が必要と考えられる。このため、当初考えていた網羅的比較的分析に加え、限定されたデータ収集量でも着実に分析が可能な、リズムを特徴付ける量の規定に向けた研究を開始する。この新課題に対しは、言語普遍なリズム特徴記述に対しての直接的な検討を行い、音声合成を含む音声科学的手法の援用による研究進展を図ってゆく。また引き続き、研究の焦点は音声生成の時間制御・知覚特性分析にあるが、韻律を左右するもう一つの基本的な特徴量である基本周波数が示すアクセント・イントネーションについても、第二言語音声の音響・韻律分析を開始し、客観評価への理解を深め、成果展開を積極的に図ってゆく。
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