研究課題/領域番号 |
23320092
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研究機関 | 国立情報学研究所 |
研究代表者 |
坊農 真弓 国立情報学研究所, コンテンツ科学研究系, 助教 (50418521)
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研究分担者 |
大杉 豊 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 准教授 (60451704)
菊地 浩平 国立情報学研究所, コンテンツ科学研究系, 研究員 (60582898)
原田 なをみ 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (10374109)
堀内 靖雄 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 准教授 (30272347)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 日本手話 / コーパス / 話し言葉 / 方言 / 年代差 |
研究概要 |
本研究の目的は,ろう者(日本手話を生活言語とする聴覚障害者)と聴者(日本語を生活言語とする人々)が,互いの言語の存在を認め,互いのコミュニケーションスタイルを尊重しあう環境の実現であった.具体的には,日本語と比較して圧倒的に言語権を得ていない日本手話の話し言葉データを計画的に収録し,コーパスとしてまとめ,言語研究の資料として扱える環境を整備することである.従来の日本手話研究は主に作例が用いられ,実際の話し言葉には焦点が当てられてこなかった.本研究では,我々がこれまで音声日本語の話し言葉の研究を進めてきた経験から,対話やインタビュー等の自然な日本手話の話し言葉の収録・分析に重きを置いてきた.本研究により,これまで文法体系や語彙体系に主眼が置かれてきた日本手話研究に,社会言語学的・コミュニケーション論的アプローチの有用性を示すことが可能になる. 平成24年度は本プロジェクトの要である,コーパス構築のためのデータ収集と日本語翻訳資料の作成に注力した.具体的には,群馬県,奈良県の30代から70代までの男性ペアと女性ペアを各地域のろう者関係団体の協力を得て選出し,映像収録機材を持って各県を訪れ,2~3日かけて課題志向対話と語彙課題の収録を実施した.各県20名のろう者,計40名のろう者の手話表現をバランスよく収録することに成功した.この成果は,平成24年5月NHK教育番組『ろうを生きる難聴を生きる』にも取り上げられ,日本全国の手話に興味を持つ人々から非常に高い関心を得ている. 次にデータ収録後は,課題志向対話に対して日本語翻訳を付与する活動を実施した.具体的には,各県5名の手話通訳者計10名と日本手話を生活言語とするろう者3名と高い技術を持つ手話通訳者3名の協力を得て,ラベル,構造訳,翻訳の三種類の情報を付与している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
データ収録が完了し,翻訳方針のデザインが定まっただけではなく,本プロジェクトは国内外の多くの研究者から注目を浴びている.テレビ放映のみならず,米国のペンシルバニア大学の言語資源Wikiに本プロジェクトのリンクを掲載していただくなど,国内外の研究者が日本手話にアクセスできる環境が整いつつある.従来の日本手話研究は主に作例が用いられ, 実際の話し言葉には焦点が当てられてこなかった.本研究の進展は,今後の日本の手話研究に大きな発展をもたらすことは言うまでもない. また同時に各地域の実験に参加したろう者と手話通訳者と綿密に連絡を取り,データを細かく翻訳する方法を講義するなど,地域の手話研究活動,手話通訳問題検討活動に効果的な影響を与えている.以上のような国内外の評価と連携を土台に,本プロジェクトは非常に高い成果をあげてきている.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成25年度は,前年度に続く翻訳活動のみならず,コーパス公開とコーパスを世の中に広める活動(地域に出向いて講演する,データ分析手法の講義をする等)を中心に実施する.翻訳活動では,高い技術を持つ手話通訳者2名に課題志向対話のラベル,構造訳,翻訳の付与を引き続き実施していただき,表現上理解しがたい箇所については,各年代のネイティブのろう者に質問するなど,データの精度を高める活動をする. コーパス公開は,(1)インターネット上で映像のストリーミング配信,(2)国立情報学研究所に事務局を設け,データ利用者と契約書を交わし,データをDVDで貸し出す,といった二つの手法を取る予定である.(1)は手話に興味がある一般の人々向けであり,(2)は手話を研究素材として用いる研究者向けである.平成24年度に収録したデータすべてを公開するのはデータの精度確保が困難なため,各データのコア部分をあらかじめ決め,その部分を公開する予定である.本コーパスの特性である,手話の方言,年代差を実感できるような形でデータを公開したいと考えている. 最後に,コーパスを世に広める活動では,データ収録と翻訳にご協力いただいた2つの地域を中心に今後データ収録をしたいと考えている地域に対する講演や講義を予定している.その他に東京でも講演を実施する可能性がある.これらの活動を通し,手話のコーパス言語学の重要性を世の中に広める予定である.
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