研究課題/領域番号 |
23320116
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
吉村 紀子 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (90129891)
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研究分担者 |
武田 修一 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (80137067)
寺尾 康 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (70197789)
白畑 知彦 静岡大学, 教育学部, 教授 (50206299)
澤崎 宏一 静岡県立大学, 国際関係学部, 准教授 (20363898)
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キーワード | 第二言語習得 / 文法モジュール / インターフェイス / 照応形 / アスペクト / 局所性 / 現在完了形 / 母語の転移 |
研究概要 |
本研究は、文法モジュールとインターフェイス論の知見に基づき、第二言語習得の本質について解明することを目的とし、特に、英語と日本語の習得過程について日本語・英語・中国語・トルコ語の母語話者を対象に通言語的に調査を実施し、研究成果を実践的な外国語教育に役立てることに考察の焦点を置く。 平成23年度は、(1)統語-意味のインターフェイスの問題として、英語のWh-移動について長距離及び複数疑問詞文の理解度を調査し、日本語母語話者にとって'局所性'は理解できるが、素性[+wh]の照合位置の習得が極めてむずかしいことが分かった(第12回日本第二言語学会にて発表予定)。(2)統語-談話のインターフェイスの課題では、日本語・中国語・韓国語・トルコ語の母語話者による照応形'himself'と「自分」の習得調査に取り組んだ。データ分析の結果、顕著な母語の転移は観察されず、人間の認知の核を成す'局所性'が習得の主要因であることが確認された(国内外の学会発表済・International Conference on Bilingualism and Comparative Linguistics (香港) 発表予定)。(3)形態-統語-意味のインターフェイスの領域では、アスペクトの問題を採り上げ、特に英語の過去形と現在完了の習得について予備調査を実施した結果、日本語と異なる意味を持つ英語完了形が初級~中級レベルの学習者にとってむずかしいことが明らかになった(第14回言語科学会発表予定)。 このように、研究成果として、統語レベルでは母語の転移は重要な問題ではなく局所性が主要因であるのに対し、意味レベルでは母語とのズレが学習困難に繋がる点を実証的に指摘できたことは、言語習得研究において文法のモジュール性を考慮しつつ、インターフェイス論に基づく研究を推進するのが重要であることを示した点で意義深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
日本語の照応形「自分」の習得について、当初の計画になかった新たな被験者グループ-第二言語として日本の大学で学ぶ中国語母語話者グループと第三言語としてカナダの大学で日本語を学ぶ中国語母語話者-からデータを収集することができた。その分析結果は香港でのバイリンガル習得学会にて発表する予定である。また、これらのデータを英語・韓国語・トルコ語の母語話者からの資料と比較対照して通言語的研究をさらに進めている(米国習得学会発表準備中)。加えて、当初の計画になかった日本語の「~ている」について習得調査の準備(問題文の作成・英語翻訳等)が終了し、本実験開始へ向けて始動した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、まず、前年度の継続研究として、談話における無形・顕在の代名詞の用法について調査を開始する。次に、第二言語のアスペクト習得について、選語学習者と日本語学習者を対象に双方型研究をさらに展開して行く。アスペクト習得については、これまで系統立った研究がほとんどなされていないため、実験を遂行する上で試行錯誤が続くことが予想されるが、調査項目が多いこと、また資料収集が通言語的に実施される点から、研究の広がりが期待される。このように、アスペクトの習得研究に多大な時間を要するため、当初予定していた「冠詞の習得」については平成25年度の研究対象としたい。 なお、以上の調査は、日本語・英語・中国語・トルコ語をそれぞれ母語とする英語学習者と日本語学習者を被験者として実施する観点から、その円滑な調査遂行のため、今年度からトルコ語と中国語の言語学者をそれぞれ海外から研究協力者としてプロジェクトに参加してもらうこととなった。
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