研究課題/領域番号 |
23320116
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
吉村 紀子 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (90129891)
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研究分担者 |
澤崎 宏一 静岡県立大学, 国際関係学部, 准教授 (20363898)
武田 修一 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (80137067)
寺尾 康 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (70197789)
白畑 知彦 静岡大学, 教育学部, 教授 (50206299)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 第二言語習得 / 文法モジュール / インターフェイス論 / アスペクトの習得 / 「自分」の習得 / 局所性 / 母語の転移 / 中間言語 |
研究概要 |
本研究は、第二言語としての英語と日本語の習得過程及びその中間言語の特徴と本質について文法モジュールとインターフェイス論の観点から捉え直し、その成果を外国語教育に役立てることが目的である。 平成24年度は、3つの実験調査を実施し、結果を分析した。第一の調査では、統語ー意味の問題として、大学生を対象に、Wh-長距離移動を容認しない動詞(ask wonder)の構造を明示的に指導したが、学習効果が見られなかった。英語特有の移動制約については教育において学習を積み重ねる必要があると提案した。第二の調査では、統語ー談話の問題として照応形の習得を考察するために、日本語・韓国語・中国語・トルコ語を母語とする英語学習者によるhimself/herselfの習得、また中国語・英語を母語とする日本語学習者による「自分」の習得について日英語の両方向から調査した。結果は、学習者の母語に係わらず、同一節内に照応形の先行詞を探す「短距離束縛」は容易であった一方、「長距離束縛」はむずかしいことが明らかになった。この対比は人間にとって言語習得のカギが‘局所性’であること、そして母語が第二言語に類似する場合、母語の知識は正の転移でなく、第二言語の習得を促進する‘手助け’として役立つことを示唆すると分析された。第三の調査では、形態ー統語ー意味の問題として、大学生を対象に、過去形と現在完了形の習得に関する実験をおこなった。英語の場合、現在完了の代わりに過去形を誤用する間違いが多く見られ、その主要因として日英語間にアスペクトの概念と意味に大きく齟齬があるためだと主張した。結論として、アスペクトの意味や用法の習得には「英文和訳」による英語教育はあまり効果的ではないと述べた。 研究成果はレフリー制の国内外の学会で発表し、論文として学術雑誌(査読付有)に掲載された(成果リスト参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(理由)日本語の照応形「自分」の習得について、次の3つの日本語非母語話者グループによる比較実証研究の結果を分析し、その成果を発表できた―①日本語を日本の大学で第二言語として学習する中国人留学生・②日本語をカナダの大学で第三言語として学習する中国人留学生・③日本語をトルコの大学で第三言語として学習するトルコの大学生―。その成果として、第二言語・第三言語の習得における母語の役割や影響について通言語的に比較して議論することができた。特に、最近日本語は第三言語として開始する学習者が多くなってきたこと、しかしながら第三言語としての日本語習得に関する調査がこれまでほとんどなされていないことを合わせて考えれば、この研究は今後の日本語教育にとって有益であった。 また、日本語が母語の英語学習者にとって「英語の過去と現在完了」の習得が極めてむずかしいという調査結果を踏まえ、どの習熟度レベルに到達すればそれが可能となるかをさらに調査するために、日本での大学教育終了後にアメリカの大学に留学している、あるいは教えている日本人を対象に完了形の実験を実施できた。その成果として、ニアネイティブの日本人はむずかしいアスペクトについても英語話者とほぼ同様な知識を持つことが明らかになったが、これは日本の英語教育におけるインプットと量について有益な示唆点を含むものであった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として、第一に、前年度からの継続課題として、アスペクトの習得研究に取り組んで行く。具体的には、日本語を母語とする英語学習者にとって「なぜ現在完了形の習得がむずかしいか」について形態素―意味の接点からさらに追跡実験を行い、その習得過程と問題点をより明らかにしたい。第二に、日本語のアスペクトについて、結果相の「~ている」は習得がむずかしいと一般的に言われているが、この点について英語と中国語を母語とする学習者を対象に再検証し、「なぜむずかしいか」をさらに実証的に検証していく。第三に、日本語を母語とする英語学習者を対象に代名詞の習得研究をさらに継続して行く。特に、代名詞と先行詞の関係について文レベルで調査してきた前年度までの研究を談話領域まで拡大し、代名詞の照応関係を談話単位で適切に理解し用いることができるかを調査する。また、日本語の無形主語代名詞は有形主語言語を母語とする学習者にとってむずかしいとされる点についても調査を進めて行きたいと考えている。 なお、以上の日英語の習得研究は通言語的に進めることが必要であるため、米国在住の言語学者が継続して本研究プロジェクトに協力することになっている。 それぞれの研究成果は、国内外の学会にて発表するために適宜にアブストラクトを提出すると共に、その発表内容を論文にまとめて行く作業を継続する。
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