研究課題/領域番号 |
23320148
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
楠木 賢道 筑波大学, 人文社会系, 教授 (50234430)
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研究分担者 |
浪川 健治 筑波大学, 人文社会系, 教授 (50312781)
井川 義次 筑波大学, 人文社会系, 教授 (50315454)
上田 裕之 筑波大学, 人文社会系, 助教 (70581586)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 清朝 / レザノフ / 志筑忠雄 / 近藤重蔵 / ネルチンスク条約 / ロシア / 喇嘛考 / 衛蔵図識 |
研究概要 |
本研究は,18世紀初めの荻生北渓,及び19世紀初めの志筑忠雄ら江戸時代知識人の清朝史に関する研究を明らかにし,それらが日本の近代東洋史学者に影響を与えたか,どのように満洲国期に変容していったかを検討し,江戸時代以来の日本の清朝史研究の歴史を明らかにせんと試みるものである。本年度は,特にレザノフの長崎来航(1804-1805)を目の当たりにした志筑忠雄,近藤重蔵らが,1世紀以上前にロシアとネルチンスク条約を締結した清朝の歴史と政治体制に興味を持つに至った経緯と彼らの清朝理解の水準と視角,および彼らが用いた原典史料を究明した。その結果①楠木は志筑は『二国会盟録』のなかで,清朝皇帝の王権が元朝皇帝フビライを淵源とすること,また王権の正統性がチベット仏教の保護者(施主)という側面によって支えられていたことを,解明した。また井川は,志筑が用いたオランダ語史料の原典,仏語版デュアルド『シナ帝国全誌』の訳註を進めた。また②楠木は,近藤が『喇嘛考』のなかで,『衛蔵図識』を用いて,グシ=ハンのチベット平定から100年余りの複雑きわまりない清朝-チベット関係史を明らかにし,ダライ=ラマの大施主という観念のもとで,清朝皇帝たちがどのようなリアルポリティックスを,チベット仏教を信奉する各勢力との間で繰り広げていたかを叙述たことを明らかにした。また,近藤は,中華思想に拘泥することなく,清朝皇帝たちも,アクターの一人として描写しており,また清朝によるチベット統治をmanifest destinyとしては論じていない。これはロックヒルが『衛蔵図識』の英文訳注を発表する80年前のことである。 上田は,引き続き日本銅が輸入され,制銭に鋳造されるまでの過程を考察した。また清朝国家論研究を行うため中国第一歴史档案館で史料調査を行った。 浪川は,津山において,宇田川家・箕作家の清朝研究に関する史料調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の研究成果は,作業仮説部分も含めて,概要が明らかになりつつある。 その概要を2012年12月5-8日にプリンストン高等研究所で開催された国際シンポジウムThe Nature of the Manchu Qing Empire and of its Relations with Other Polities in Asiaにおいて,“Perceptions of the Manchu Qing Dynasty during the Edo Period Japan”という論文で楠木が報告し,欧米の著名な清朝史研究者から意見を受け,高い評価を受け,我々の研究の重要性を理解してもらえた。また,その際に,重要な指摘も受け,今後の研究に取り入れることができる。 さらに本研究の研究成果について,藤原書店で行われている清朝史叢書研究会においても楠木が報告し,研究成果を『江戸の清朝研究』として,26年度或いは27年度に刊行することが決定した。
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今後の研究の推進方策 |
デジタルライブラリの展開はめざましく,17-18世紀の欧米の古典籍の多くがWeb上から閲覧できるようになったので,ヨーロッパへの海外調査は必要なくなったと考えられる。その一方,史料公開の現状から中国・台湾への史料調査は継続しなければならない。また日本国内の調査も,目録は完備しているが,和本のデジタルライブラリ化は,所蔵機関によって差があり,また原本を閲覧する必要性も出るので,事前の準備を十分に行ない,Web上で史料を獲得するか,複写を取り寄せるか,実際に出張して原本を確認するかを判断して,研究費を有効に使うことにする。24年度予算で購入し,研究に使用した『清代新疆満文档案彙編』については,25-26年度の研究にも,引き続き清朝国家論という視点から活用し,同書の満文史料の読解に重点的に取り組む。
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