研究課題/領域番号 |
23320161
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
竹本 真希子 広島市立大学, 付置研究所, 講師 (50398715)
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研究分担者 |
若尾 祐司 名古屋大学, 文学研究科, 名誉教授 (70044857)
木戸 衛一 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (70204930)
北村 陽子 愛知工業大学, 工学部, 准教授 (10533151)
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キーワード | ドイツ / 原爆 / 戦争 / 平和 / 記憶 |
研究概要 |
本研究課題は、第二次世界大戦後の世界史において、被爆都市「ヒロシマ」の情報が世界各国にどのように広まり、どのように記憶化されてきたのかを問うものである。具体的には著書『灰墟の光』でヨーロッパにヒロシマを紹介し、『原子力帝国』で反原発運動に大きな影響を与えたジャーナリスト、ロベルト・ユンクと、ユンクのヒロシマ取材を助け、自ら広島市の国際交流や広島平和記念資料館の運営に尽力した小倉馨に関する史料からこれを分析する。とくに、『灰墟の光』執筆のもとになったユンク宛て小倉書簡(小倉文書)が主要な史料となる。本研究はこれを英訳ヒロシマ史料として公表して、世界各国のヒロシマ研究に寄与し、平和研究の国際的なネットワークを形成する目的も有する。 また同時に本研究課題は、従来の個別ないし各国別の平和運動史を超えて、「記憶の歴史学」の手法による新しい戦後世界史(グローバル・ヒストリー)を構想するものである。そのため、ドイツ語圏の代表的な都市で「ヒロシマ」と「アウシュヴィッツ」がどのように記憶化され、関連付けられてきたかについても分析を行い、ドイツ語圏におけるヒロシマの記憶の受容史と同時に、戦争の記憶化プロセスを地域レベルで解明し、平和意識の歴史的特質を把握することを目指す。 初年度である平成23年度は、研究体制の整備を図るとともに、小倉文書の整理・分析・校訂を進めた。この過程で、新たな小倉関連文書が発見された。これにより、今後ヒロシマの情報の伝播にとどまらず、これまで研究されてこなかった広島市の国際交流、平和行政の歴史をも明らかにすることが可能となった。また本研究は、核エネルギー(核兵器・原発)に人間がどう向き合うかが問われている現在、「核と平和」の関係を歴史的に考察するという課題とも大きく結び付いているため、極めて今日的な意義を有するものとなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
事前調査の段階で、小倉馨に関する新たな史料(広島市の平和行政、広島平和記念資料館、国際交流等に関するメモ)や当時の広島やユンクの関係者が見つかった。この新たな知見の発見によって、追加調査が必要となり、当初計画を変更する必要が生じたが、来日時のユンクについてや、日本における「アウシュヴィッツ」の記憶の受容に関して関係者に話を聞くことができ、大きな成果が得られた。これによりヒロシマの情報の伝達とヒロシマの国際化を分析するための史料は、当初扱う予定だったものよりさらに充実することとなった。 定期的に研究会を開催することで、研究代表者・分担者・協力者は史料についての情報を共有し、同時にそれぞれ担当する分野に関して研究報告を行って相互の研究の関連性などについて議論を進めている。さらにドイツ史研究者等を招いて意見交換を行って、「ヒロシマとアウシュヴィッツ」に関する議論を深めている。また、小倉文書の整理・校訂を進める過程で『灰墟の光』が書かれた1950年代後半のヒロシマの平和をめぐる議論の分析も進み、ドイツの都市とヒロシマとの関係も少しずつ明らかになって、ユンクや小倉の活動を知るための背景の理解も進んできた。これに加えてフィールドワークを行って、これまで研究文献ではとらえられてこなかった広島や日本における戦争の記憶にアプローチしている。こうした成果により、本研究課題は当初の計画以上に進展していると評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに小倉文書の整理・校訂を進めていく。浜井メモをはじめとして、新たに見つかった史料の分析を行い、個人情報に配慮したうえで公表が可能なものについてはできるだけ早い段階で公にする。 同時に『灰墟の光』以外のユンクのヒロシマに関する言説も集め、これらにあらわれた彼のヒロシマ観を分析する。またユンクの著作に対する同時代の各地の新聞や雑誌の反響や評価の分析から、ヒロシマ情報がドイツをはじめとするヨーロッパにどのように伝えられ、受容されたのか明らかにする。ユンクの遺稿を管理し、ユンク研究の中心地となっているロベルト・ユンク未来研究図書館(オーストリア・ザルツブルク市)とも協力しながら、これまで十分になされてきたとはいえないユンク研究を活性化させるために、研究成果を日本だけでなくオーストリアやドイツに対しても発信していく。 さらに来日時のユンクを知る関係者、広島の平和運動や平和行政の担い手等へのインタビューを行い、さらにヒロシマ情報の国際化に関する調査を行う。ユンクだけでなく、広島の平和運動がドイツの平和運動とどのようにして接点をもったか明らかにしていく。ドイツに渡った広島の被爆者がどのような証言をし、それがどのようにドイツで受け止められたか、ドイツの核と平和に関する議論に被爆証言がどのように関与することになったかについても調査する。 またドイツ語圏においては、ベルリン、ドレスデン、フランクフルト・アム・マイン、ウィーンの例を取り上げ、各都市におけるヒロシマとアウシュヴィッツの記憶や平和運動の在り方、平和の受け止め方、戦争の記憶化のプロセスの特徴などを明らかにする。
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