研究課題/領域番号 |
23320161
|
研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
竹本 真希子 広島市立大学, 付置研究所, 講師 (50398715)
|
研究分担者 |
北村 陽子 愛知工業大学, 工学部, 准教授 (10533151)
木戸 衛一 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (70204930)
|
研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2014-03-31
|
キーワード | ドイツ / 原爆 / 戦争 / 平和 / 記憶 |
研究概要 |
本研究課題は、第二次世界大戦後の世界史において、被爆都市「ヒロシマ」の情報が世界各国にどのように広まり、どのように記憶化されてきたのかを問うものである。具体的には著書『灰墟の光』でヨーロッパにヒロシマを紹介し、『原子力帝国』で反原発運動に大きな影響を与えたジャーナリスト、ロベルト・ユンクと、ユンクのヒロシマ取材を助け、自ら広島市の国際交流や広島平和記念資料館の運営に尽力した小倉馨に関する史料からこれを分析する。とくに、『灰墟の光』執筆のもとになったユンク宛て小倉書簡(小倉文書)が主要な史料となる。本研究はこれを英訳ヒロシマ史料として公表して、世界各国のヒロシマ研究に寄与し、平和研究の国際的なネットワークを形成する目的も有する。 また同時に本研究課題は、従来の個別ないし各国別の平和運動史を超えて、「記憶の歴史学」の手法による新しい戦後世界史(グローバル・ヒストリー)を構想するものである。そのため、ドイツ語圏の代表的な都市で「ヒロシマ」と「アウシュヴィッツ」がどのように記憶化され、関連付けられてきたかについても分析を行い、ドイツ語圏におけるヒロシマの記憶の受容史と同時に、戦争の記憶化プロセスを地域レベルで解明し、平和意識の歴史的特質を把握することを目指す。 2年目となる平成24年度は、広島平和記念資料館と共催で「ロベルト・ユンク生誕100周年記念資料展 ヒロシマを世界に伝える――核の被害なき未来を求めて――」を開催した(協力:NPO法人日独平和フォーラム、ロベルト・ユンク未来研究図書館)。これに際して本研究グループでユンクに関する資料集を日本語・英語の2ヶ国語で作成し、資料展の観覧者や国内外の平和・歴史・原子力関連の研究者に送付して研究成果をひろく公表した。またザルツブルクや、ベルリン、ドレスデン、ウィーンで戦争の記憶に関する資料調査とフィールドワークを行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度の調査で、小倉馨に関する新たな史料(広島市の平和行政、広島平和記念資料館、国際交流等に関するメモ)や当時の広島やユンクの関係者が見つかったのに続いて、2年目はザルツブルクで行ったユンクの遺稿の調査で、新たに小倉文書の一部を発見することができた。これまでは小倉文書約750頁のうち、250頁分しか残存していなかったが、今回の調査でさらに100頁ほどのオリジナルの資料が発見されたのである。これは大きな成果であった。同時にユンクが来日した際に持ち帰った資料や日本からの手紙類を発見し、ユンクと日本の平和運動、反原発運動との関係を把握することが可能となった。 そしてこうした成果を踏まえて行ったユンクの資料展と、これに関連する講演会やWeb会議には多くの市民や研究者が集まったが、ヒロシマ情報の世界化についてドイツ語圏との関係という視点から新たに問題提起することによって「ヒロシマの平和」に関する議論や広島の歴史に対する見直しを促すことが可能となった。さらにロベルト・ユンク未来研究図書館と連絡をとりながら資料展を開催することで、ヒロシマ研究ならびに日本のドイツ史研究の成果を国内外に示すことができた。 初年度に引き続き定期的に研究会を開催して、研究代表者・分担者・協力者は情報の共有や意見交換に努めた。同時にヒロシマの記憶だけでなく、日本におけるアウシュヴィッツ情報の受容や長崎の平和運動に関してもフィールドワークを重ねて、20世紀における戦争の記憶に関する議論を進めた。これらの成果により、本研究課題は当初の計画以上に進展していると評価することができる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに引き続いて、小倉文書の整理・校訂を進めていく。浜井メモをはじめとして新たに見つかった史料の分析を行い、個人情報に配慮したうえで公表が可能なものについてはできるだけ早い段階で公にする予定である。 同時に『灰墟の光』以外のユンクのヒロシマに関する言説と、これらにあらわれた彼のヒロシマ観の分析を進める。またユンクの著作に対する同時代の各地の新聞や雑誌の反響や評価の分析から、ヒロシマ情報がドイツをはじめとするヨーロッパにどのように伝えられ、受容されたのか明らかにする。 さらに来日時のユンクを知る関係者などへのインタビューを引き続き行い、さらにヒロシマ情報の国際化に関する調査を行う。ユンクだけでなく、広島の平和運動がドイツの平和運動とどのようにして接点をもったのか明らかにしていく。広島とドイツの平和運動の交流がドイツの平和に関する議論にどう影響したのか、平和運動史にどのように位置づけられるのか、ドイツ語圏の研究者とも議論を行って考察していく。 ドイツ語圏の戦争の記憶については、ベルリン、ドレスデン、フランクフルト・アム・マイン、ウィーンの例を取り上げ、各都市におけるヒロシマとアウシュヴィッツの記憶や平和運動のあり方、平和の受け止め方、戦争の記憶化のプロセスの特徴などを明らかにする。 さらに今後は、広島以外の都市でもユンク展を開催して、より広くヒロシマの記憶や「核と人間」に関する議論を行う予定である。また昨年度に引き続いてユンク展のパンフレット等の研究成果を国内外の研究者に送付し、ヒロシマ情報を提供してヒロシマ研究のネットワーク作りを行う。 平成25年度末にはドイツ史関連の学会でシンポジウムを行って、これまでの研究成果を公表し、ヒロシマとアウシュヴィッツに関する議論をさらに深めていくこととなる。
|