本研究課題は、第二次世界大戦後の世界史において、被爆都市「ヒロシマ」の情報が世界各国にどのように広まり、どのように記憶化されてきたのかを問うものである。具体的には『灰墟の光』でヨーロッパにヒロシマを紹介し、『原子力帝国』で反原発運動に大きな影響を与えたジャーナリスト、ロベルト・ユンクと、ユンクのヒロシマ取材を助け、自ら広島市の国際交流や広島平和記念資料館の運営に尽力した小倉馨に関する史料からこれを分析する。とくに『灰墟の光』執筆のもとになったユンク宛て小倉書簡(小倉文書)が主要な史料となる。 同時に本研究課題は、従来の個別ないし各国別の平和運動史を越えて、「記憶の歴史学」の手法による新しい戦後世界史(グローバル・ヒストリー)を構想するものである。そのため、ドイツ語圏の代表的な都市で「ヒロシマ」と「アウシュヴィッツ」がどのように記憶化され、関連付けられてきたかについても分析を行い、ドイツ語圏におけるヒロシマの記憶の受容史と同時に、戦争の記憶化プロセスを地域レベルで解明し、平和意識の歴史的特質を把握する。 最終年度である平成25年度は、前年度に広島平和記念資料館との共催事業として開催した「ロベルト・ユンク生誕100周年記念資料展 ヒロシマを世界に伝える――核の被害なき未来を求めて――」の巡回展を開催した。加えてユンクの反核兵器・反原子力運動とヒロシマとの関係について市民を対象とした講座を行い、さらに西日本ドイツ現代史学会において「核の時代におけるヒロシマ」と題したシンポジウムを開催するなど、研究成果を広く公開した。ユンク展は本研究課題の期間終了後もひきつづき各地で開催されることとなっている。
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