研究課題/領域番号 |
23320165
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
朝治 啓三 関西大学, 文学部, 教授 (70151024)
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研究分担者 |
加藤 玄 日本女子大学, 文学部, 准教授 (00431883)
田口 正樹 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (20206931)
渡辺 節夫 青山学院大学, 文学部, 教授 (70036060)
服部 良久 京都大学, 文学研究科, 教授 (80122365)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 帝国 / 領邦 / 帰属心 / 都市 / 関係史 / 統治 / 領有 / カトリック |
研究概要 |
平成25年度には研究集会を2回実施し、分担者、協力者、合わせて6名が研究成果の中間報告をした。 11月11日には立教大学で行われた東北大学西洋史研究会大会で共通論題「西欧カトリック世界の帝国的構造」のシンポジウムを開催した。朝治啓三が趣旨説明「一国完結史から関係史へ」を報告したのち、加藤玄が「中世後期の英仏関係とガスコーニュ」について、青谷秀紀が「伯権力衰退期のフランドルと英仏王権」について、朝治が「フリードリヒ2世とヘンリ3世時代の英独関係」について、渡辺節夫が「中世独・仏関係史の中の王権と皇帝権」について、研究成果を報告した。その後質疑が半日かけて行われ、会場からの質問や問題提起に対して、発表者が応え、帝国として捉えることのメリットについて、議論を前進させることができた。特に大阪大学言語文化学部准教授・古谷大輔氏の礫岩国家論とは、構想の類似性を知った点で収穫であった。 12月には雑誌『西洋史学』において、朝治、渡辺、加藤執筆の「帝国で読み解く西欧カトリック世界」と題するフォーラム原稿が掲載された。研究集会では将来の論文集刊行に向けて、執筆計画、出版社との交渉が話し合われた。また将来、次の研究計画を立て、新たに研究助成を得て、同じ研究目標に向かって、異なる角度からの研究を実践して、帝国的権力構造論を完成されるための話し合いが行われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中世英独仏史を、それぞれの「王国」ごとに完結した歴史の並列として説明するのではなく、それぞれに地域や住民の間で生じた個々の事件や現象が、西欧世界全体の権力構造の中で生じた事件であるとみなして説明するのが関係史の手法であり、従来まで取り組まれてこなかった方法である。新たな手法による中世西欧世界史像を提供するという計画は、構想が大きく、短時日で、また少数の研究者だけで可能になるとは言えないが、過去3年間の研究の積み重ねにより、伝えるべき内実は明確な像を結ぶ状態になったといえる。それを伝えるための最初の社会的発信は2012年に刊行した『中世英仏関係史』(創元社)である。その実績と、読者からの質問に答えるために、新たに中世英独仏関係史を提唱しようとしている。ドイツを加えることで西欧世界全体を視野に入れた議論ができるからである。その成果を、雑誌『西洋史学』249号誌上で一部公開し、また西洋史研究会大会のシンポジウムで共通論題として論じ合った。 今後は分担者、協力者全員の論文を結集して総合的な英独仏史を描く論文集を刊行する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
26年度には朝治、渡辺、加藤の3者がまとめ役を務めて、関係史としての総合性を持たせる論文集刊行を目指す。その論文集では、それぞれの地域に重点を置いた個別研究の寄せ集めではなく、それとは正反対に、西欧全体を視野に入れて、その中での個別の事件や地域現象を捉えなおすことを主眼にした論文を集める。この視角はヨーロッパの学界でも認知されており、その状況を既に朝治、渡辺、加藤の3者共同で学界動向原稿を作成し、『西洋史学』249号に掲載した。中核となる権力体としてはシュタウフェン家、カペー家、プランタジネット家の3者が実在し、それらの核へと帰属する王国、領邦、都市、その他の現地小権力体が構成する権力集合体を、本研究会では帝国的権力構造と呼ぶことにする。それらは神聖ローマ帝国、カペー家とヴァロワ家のフランス王国、アンジュー帝国とその遺産である。これら3種の帝国の境界線は不安定であり、現地権力体がどこの権力核により大きな帰属心を抱くかによって境界が決まる。いわば巨視的な西欧世界権力像を描くことにこの研究は専念して来た。 この成果を出版し公表したのちには、今度は各地の地域権力体の側から見た帝国的権力構造の必要性、そこへの帰属心の形成・維持のされ方、そして帰属先を変更する過程の精密な実証による歴史的変化の確認などが、次の研究課題となるであろう。多くの事例を検討するので共同研究が不可欠である。これには帝国的権力構造の考え方を、分担者全員が確実に認識したうえで、個別事例を検証するという姿勢が必要であり、代表者の主導性と、分担研究者間の横断的な協力が前提をなす。研究代表者としては、研究費補助があれば、この構想の実現は可能である。この構想による研究成果は、西洋中世史研究だけでなく、19世紀的国民国家中心史観を乗り越えて、広域的な権力構造による平和と繁栄の維持という、現代政治の課題にも寄与し得るであろう。
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