研究課題
初年度の研究は、分析方法の確立とその応用の二つの柱で構成することを企図した。主として現生資料を用いたストロンチウムの動態分析に関しては、大陸の漆液資料の追加分析と、漆塗膜の胎となる物質について分析を行った。韓国、タイ、ベトナムで採取された漆液のSr同位体比を測定した。以前入手したベトナムウルシは、非常に高い87Sr/86Sr比を示したが、今回の測定では、中国産漆と同様の値が得られた。これらは、後述する琉球漆器の制作地、流通を検討する際の基礎データとしても用いられる。また、漆製品において、漆塗膜を胎から分離することが困難な場合があり、これらの不純物が混入したまま同位体比測定が行わざるを得ないことが起きるので、木材、紙、布、粘土、ベンガラなどについてのSr同位体比、濃度を測定し、基礎情報を蓄積した。縄文漆の産地同定への応用では、鳥浜貝塚をはじめ、縄文時代前期~後晩期、弥生時代の漆製品、漆液、ウルシの木についての同位体分析を行った。特に東京都下宅部遺跡に関して、土壌を含め、詳細な検討を行った。現在、これまでに得られた分析結果について解析を行っており、論文発表を予定している。一方、中世~近世の琉球漆器の分析を進めている。伝世品と出土遺物についての分析から、琉球列島は複雑な流通ネットワークを形成していることが推測される。琉球列島で栽植されているウルシ、生育土壌の同位体比を分析すると共に、すべての資料について、熱分解GC/MS分析を行い、断面分析、Sr同位体分析を行った。従来は、ウルシオールを主成分とする漆塗膜資料について、同位体分析を実施してきたが、ラッコール、チチオールを有する塗膜についても、その産地を推定するために分析を行うよう方針を変更した。また、漆製品を制作した場所を推定するために、漆が塗られている胎、主として木材の同位体比測定を開始した。
2: おおむね順調に進展している
漆塗膜の酸素同位体比を用いて、漆産地を絞り込む試みについて、進展にやや遅れが見られる。しかし、次年度からの分析を予定していた琉球漆器に関する分析、解析が大きく進展しており、全体としておおむね順調に進展していると考えている。
1)縄文時代前期を中心とした漆製品の産地推定、漆液または漆製品が移動した可能性を検討する。2)琉球漆器の分析を進め、大陸、日本列島、南方との交易の実態を解明する。3)アイヌ漆器の分析資料を採取、分析を進める。特に、在外アイヌ関係資料からの試料採取を推進する。
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