研究課題/領域番号 |
23320167
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 邦夫 東京大学, 総合研究博物館, 特招研究員 (10272527)
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研究分担者 |
宮腰 哲雄 明治大学, 理工学部, 教授 (00062018)
中井 俊一 東京大学, 地震研究所, 教授 (50188869)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 同位体分析 / 年代測定 / 産地同定 / 考古学 / 流通経路 |
研究概要 |
今年度の研究は、現生試料による情報を集約し、縄文漆の産地を明らかにすること、琉球漆器・アイヌ漆器の流通に迫ることを企図した。 主として現生資料を用いたストロンチウムの動態分析に関しては、日本海側で採取された漆液資料について追加分析を行った。また、漆液の採取時期(初辺、盛辺、末辺)による有機化合物の組成、ストロンチウム濃度、同位体比について、変動範囲を分析した。 縄文漆の産地同定への応用では、鳥浜貝塚において、縄文時代草創期にあたる1万2600年前のウルシの木が見つかっており、同位体分析を行った。福井県は、ストロンチウム同位体比を用いる研究を進める上で、やや難しい地域であるが、土壌試料などの分析結果をもとに解析を進めている。 一方、中世~近世の琉球漆器の分析を行った。伝世品と出土遺物についての分析から、琉球列島は複雑な流通ネットワークを形成していることが判明した。琉球列島で栽植されているウルシ、生育土壌の同位体比を分析すると共に、熱分解GC/MS分析を行い、クロスセクション分析、ストロンチウム同位体分析を行った。従来は、ウルシオールを主成分とする漆塗膜資料について、同位体分析を実施してきたが、複雑な交易関係を考慮して、ラッコール、チチオールを有する塗膜についても、その産地を推定するために分析を行うこととした。また、漆製品を制作した場所を推定するために、漆が塗られている胎、主として木材の同位体比測定を行っている。また、先島諸島の石垣島には、大陸から分離したとされる古い地層が存在する。琉球王朝時代、石垣島で「ウルシ」が栽培されていたとする記録もあり、当該地層の土壌と生育植物を採取した。同位体分析を行う予定である。 アイヌ漆器の資料から分析試料十数点を採取した。蛍光X線による顔料分析が終了し、クロスセクション分析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
縄文時代前期の漆製品と関係資料について、分析するための試料提供と採取にやや遅れが見られる。しかし、琉球漆器・出土漆とアイヌ漆器に関する分析、解析が大きく進展しており、全体としておおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)縄文時代前期を中心とした漆製品の産地推定、漆液または漆製品が移動した可能性を検討する。とりわけ、鳥浜貝塚におけるウルシの利用に関して、詳細な検討を進める。2)琉球漆製品の分析を進め、大陸、日本列島、南方との交易の実態を解明する。赤漆の顔料と発色を研究する。黒漆の顔料を分析し、アイヌ漆器、縄文・弥生漆製品と比較する。また、琉球諸島にウルシ、またはウルシ様植物が自生していたかどうかを確認する。3)アイヌ漆器の分析を進める。対照資料として、主要漆器産地の漆器資料を収集、試料採取、分析を行う。
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