研究課題/領域番号 |
23320168
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
鷹野 光行 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (20143696)
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研究分担者 |
新田 栄治 鹿児島大学, 法文学部, 教授 (00117532)
中村 直子 鹿児島大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (00227919)
西澤 奈津子(古瀬奈津子) お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (20164551)
森脇 広 鹿児島大学, 法文学部, 教授 (70200459)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 古代土地利用 / 噴火罹災遺跡 / 災害復旧 / 発掘調査 |
研究概要 |
2012年は敷領遺跡下原地点で、レーダー探査でみられていた太い「畦」の確認を試み、以下のことが明らかになった。 ①ほぼ南北に走る太い「畦」の間は水田としての利用は見られたが畦の西側にはなかった。②西側の太い「畦」の下端外側に凹みの連なりがあり、柵のようなものの存在が想定される。③太い畦の上には噴火によって最初に飛んできたであろう礫の堆積がなく、この「畦」の両側にかたづけられていて、「畦」が火山の噴出物によって埋もれてしまわないように処置が施された可能性がある。④しかしその作業はその後の噴火によって妨げられ、結局「畦」は埋もれてしまった。⑤太い「畦」は土地の区画を示すものとして重要であって、これが埋まって存在がわからなくなってしまわないように火山灰の除去作業が行われた。 畦の上の火山灰を除去した行為は、水田の復旧と言うよりは土地の区画の目印となる畦を明らかにしておくためのものであった。2008年と9年に発掘した中敷領地点における建物跡の周りでは、下原地点の畦の復旧途中で降り出した火山灰も含めて掘り返されている。この建物跡からは須恵器の皿の転用硯、墨書土器が出土しており、建物の使用者がやや特殊な地位にあることを予想させる。地境の目印の畦が埋もれてしまうほどの降灰が収まったあとでもこの建物の周辺の復旧作業は行われた。 開聞岳は貞観噴火の11年後の仁和元年にも噴火をしている。「三代実録」巻48 仁和元年の条にはこのときの噴火の「薩摩国言」の記録の前に「太宰府言上。管肥前国」の状況を示している。この二つをあわせて仁和元年の開聞岳噴火の影響が肥前国まで及んだとする見解があるが、敷領遺跡のこれまでの発掘地点のどこでも、貞観噴火の紫コラは一定の厚さを持って堆積しているが、仁和の火山灰は明確には認知できない。「薩摩国言」の記事と「太宰府言上。管肥前国」に始まる記事とは別のものとみるべきである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3ヶ年の研究期間において、一定の広がりを持つ敷領遺跡の範囲内で、指宿市教育委員会と協力しながら居住地域、生産に関わる地域(畑・水田)を明らかにして土地利用形態の解明を試みてきた。その上で居住地域と生産地域との噴火災害に対する復旧活動の違いも見えてきている。2011年度は居住地域の広がりを探るために発掘調査地を選定したが建物跡を見つけられずに不発に終わり、そのためやや研究の遅れを感じていた。市街地における調査のため、発掘調査できる地点を探すことが困難となってきていた。そのために2012年度は、レーダー探査で存在の確認されていた水田の区画を示す畦の確認のための発掘調査を行ったが、その結果、畦には単に水田の区画の畦と土地そのものも区画を示す畦があることがわかり、それらに対する復旧活動の違いまで検討することができた。中敷領地点における建物跡付近の復旧工事の様子とあわせてこの地域の平安時代の人々の噴火災害に対する復旧活動の様子が復元できるようになってきており、単に土地利用形態の解明にとどまらず、災害と復旧の関係へと視野を広げることができている。
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今後の研究の推進方策 |
敷領遺指宿市敷領遺跡の内部における土地利用の大まかな枠組みは、これまでの調査で明らかになった。昨年調査を行った下原地点で2004年に行ったレーダー探査の結果得られていた畦と考えられる地下遺構の一部を明らかにし、その性格が単なる水田の畦ではなく、土地の区画をする重要な畦であることが推定されてきたので、その畦の性格を一層明らかにし、条里制との関わりがあるのかどうかを考察する材料を得ていきたい。 南北方向に伸びる大畦とそれに直行する畦はレーダー探査によって位置が確認できているのでその交わる箇所に発掘区画をもうけ、畦の規模を明らかにすると共にその畦についての復旧作業の状況を把握していく。そしてこれまで調査してきた中敷領地点の建物跡付近の復旧の様子との比較を行う。また、古代の土地利用の比較研究という観点から、東京大学を中心に調査が進められているイタリア共和国のソンマヴェスヴィアーナ遺跡の調査状況の進捗度も調査する予定である。 今年度は3カ年の研究の最終年度なので、これまでの発掘調査のデータを報告書にまとめて発表し、日本考古学協会などにおける発表も予定している。 なお、発掘調査の実施に当たって、研究分担者の他に連携研究者として山形大学基盤教育院の荒木志伸准教授の参加を求め、また指宿市教育委員会・指宿市考古博物館の渡部徹也学芸員、鎌田洋昭学芸員に研究協力を求める。発掘調査はお茶の水女子大学、鹿児島大学などの学生が研究協力者として参加し、実施する予定である。
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