研究概要 |
本研究の目的は,現代韓国社会を生きる人たちが,都市中産層的な富と威信をめぐる競争にどのように折り合いをつけながら生活を営んでいるのかを,民族誌的調査研究を通じて究明することにある。初年度の平成23年度は,各自のサブ・テーマについて,それぞれの研究の進捗状況に応じ現地調査や基礎情報の収集を行った。(1)本田は,都市から農村への移住現象(帰農)について,山内地域への移住者を対象としてインタビュー調査を実施した。同地域は生態的・代案的帰農運動の拠点として知られるが,(1)運動の理想としての代案的なコミュニティと,移住者相互ならびに山内地域の生活環境とのあいだの相互作用によって形成された新たな社会性・関係性との間には,ずれが見られる点,(2)都市生活・中産層的競争からの離脱欲求と結びついた田舎生活への憧憬と,生態的・代案的な生き方・共同体への志向性とは,必ずしも一致しない点が明らかとなった。韓国の帰農現象についての基本的視角を定立し,近年の韓国における新しい社会運動とコミュニティ形成との関係についても新たな観点を提示した。(2)秀村は,キリスト教と競争との関係について,大都市・近郊と地方の教会・祈祷院を対象とした現地調査を行う一方で,教会史資料の収集にあたった。信者獲得競争が,一方で中産層的な競争を背景としつつ,他方で他の要因によっても条件づけられている可能性を指摘した。(3)仲川は,ソウルとトロントの留学斡旋機関で,海外早期留学と早期英語教育の実態について,基本情報の収集にあたった。(4)年度末に連携研究者・研究協力者の研究成果とあわせて中間総括を行い,競争への参与の主体性について,より柔軟な観点を導入する必要性が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
交付決定額が研究計画調書での申請額よりも圧縮されたため,研究計画調書で策定した研究計画を全て遂行することは難しいが,研究目的を達成しうる程度の研究は可能と思われる。基本的に研究代表者と研究分担者の研究計画の遂行に重点を置き,予算の許す範囲内で,連携研究者と研究協力者の助けを仰いで,研究目的のより十全な遂行を目指したい。
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