研究課題/領域番号 |
23330027
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
行澤 一人 神戸大学, 法学研究科, 教授 (30210587)
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研究分担者 |
近藤 光男 神戸大学, 法学研究科, 教授 (40114483)
志谷 匡史 神戸大学, 法学研究科, 教授 (60206092)
榊 素寛 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (80313055)
飯田 秀総 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (80436500)
川口 恭弘 同志社大学, 法学部, 教授 (70195064)
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キーワード | 株式 / 市場価格 / 株主保護 / 効率的市場仮説 / 企業価値 / 株式買取請求権 / 全部取得条項付種類株式 / 価格決定の申立て |
研究概要 |
本年度、我々は、研究目的との関係において、株式市場価格が重要な参照指標とされるべき会社法・金商法上の制度類型として下記の三つを選び、それぞれについて我が国判例学説の議論状況を集約した上で、これをどのように整理することができるかについて集中的に検討した。 1上場会社による募集株式の第三者割当において特に有利な価格による発行となるかどうかが問題となるケース(会社法199条3項・200条2項)。2上場会社の企業再編に伴う株式買取請求権の行使もしくは全部取得条項付種類株式の取得に係る価格算定の申立に対して、会社が株主に対して支払うべき買取価格もしくは取得価格を裁判所が決定するケース(会社法172条・786条・798条・807条)。3株式等有価証券を流通市場において取得した者が、有価証券報告書等の虚偽記載に基づいて発行者である会社に対して損害賠償請求を行う場合に、損害額の認定が問題となるケース(金商法21条の2・民法709条)。 結果、我々は、次のような知見を得ることができた。 ・判例は、それぞれのカテゴリーにおける規制の趣旨の相違にかかわらず、当該株主が有する株式の経済的価値を「客観的な企業価値」に根ざすものとした上で、実質的には「市場価格」をほとんど唯一の評価指標として参照している。 ・その理論的根拠は、形式的には、ダイレクトな市場価格主義ではなく、効率的市場仮説に求められているようであるが、〈市場価格が企業価値判断の根拠にならない場合の条件〉、そしてその際の〈代替的な企業価値測定指標〉について十分な理論的な掘り下げが見られない。すなわち、判例は、見かけほど効率的市場仮説の理論に忠実に従ってはいない。 ・判例が実現しようとしているのは市場における公正であり、これを補完するものとして、実質的には市場価格主義に近い株主保護を与えようとしているのではないか(仮説)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
株式の市場価格が指標として参照される会社法・金商法上の複数のカテゴリーにおいて、根拠となる法制度の趣旨が異なるにもかかわらず、判例はいずれの場合においても、実質的に市場価格主義に近い見解に基づく株主保護を採用しているのではないか、という共通的な分析視角が抽出されたことにより、今後、この市場価格主義に関する理論及び実務上の妥当性に係る研究へとさらに注力することができるようになったため。
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今後の研究の推進方策 |
今後、企業ファイナンス理論、証券市場論、コーポレートガバナンス論、さらには日本の会社実務や現在の経済実態等に基づく視点を本格的に導入しながら、判例が採用していると思われる市場価格主義的な株主保護の在り方の妥当性や問題点を総合的に分析・検討していく。そのために、特に、関連するこれら研究領域に係る米国の研究成果の吸収を加速させていく。さらに、進展しつつある日本の会社法・金商法改正の動向をも睨みながら、関連する改正課題については、その議論状況を批判的に吸収し、積極的に対応していく。
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