研究課題/領域番号 |
23330027
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
行澤 一人 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (30210587)
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研究分担者 |
伊勢田 道仁 関西学院大学, 法学部, 教授 (20232366)
近藤 光男 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (40114483)
志谷 匡史 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (60206092)
吉井 敦子 大阪市立大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (60268571)
川口 恭弘 同志社大学, 法学部, 教授 (70195064)
榊 素寛 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (80313055)
飯田 秀総 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (80436500)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 証券市場 / 投資損害 / 株式価値 / 民事責任 / 会社法 / 金融商品取引法 |
研究概要 |
平成24年度は、有価証券流通市場における発行会社の民事責任に関する研究において進展を見た。とりわけ、西武鉄道事件(最判平成23年9月13日)、ライブドア事件(最判平成24年3月13日)と立て続けに示された最高裁の判断は、相当因果関係論に立って株主が受けるべき損害賠償の範囲をかなり広範囲に捉え、実質的には虚偽記載公表によって生じた市場価格下落分をほぼ損害として認定するかに思える態度を示した。これに対して我々は、市場における投資損害というのは、まずもって投資者の自己責任であることを原則としつつ、虚偽の情報開示によって株式という権利のうちどのような法的価値が毀損されたのか、そして上場株式の場合にそれはどのように市場価格変動に反映されているのか、ということを緻密に精査して検討するべきであるという立場を明らかにした。特に、我々は、この論点には、金融商品取引法や市場法制という観点のみならず、会社法上の利害調整原理が深く関与しているということを重視した。すなわち、発行会社そのものに対する損害賠償請求というのは、発行会社における株主間に利益の移動を生じさせるものとして、そのままでは会社法上の利害調整原理との間に矛盾を来しかねないのである。この点をめぐる議論の中で、判例や多数説は、市場価格そのものが直接保護されるべき株主利益になるわけではない(株式の客観的価値というクッションを置く)という前提に立ちつつ、市場価格を重視して、投資損害をできるだけ広く捉えようとするのであるが、今なお、株式の価値と市場価格変動とがどのように連関するのかという点について明確に説明する理論枠組みを提示できないでいることが改めて浮き彫りにされた。さらに、市場における民事責任と会社法における利害調整原理とをどのように整合的に理解するのかという点についても、なお未決着の議論が残されていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に、株式の市場価格の持つ「法的意義と機能」及び市場価格を参照するための条件は何か、という本研究の目的については、現在までの研究において、判例及び通説は、実質的に市場価格主義に近い見解に基づいて株主保護を図ろうとしていること、しかしそのための理論的根拠については必ずしも明らかではなく、とりわけ株式の客観的価値ということを前提とする思考枠組みにおいては市場価格主義をうまく整合的に適用するのは困難であることが明らかになった。この点、証券市場論からは、端的に上場株式の場合は、市場価格で自由に売買できるという事実そのものが株主の法的利益の重要な内容を構成していると捉えたほうが良いのではないか、という示唆を得た。そして、株主の正当な利益を算定するために市場価格を参照する条件としては、判例・実務が説示するように、市場における取引がおおむね公正であり、自由かつ対等であることが求められ、この条件が阻害されるときは、裁判所が、不公正かつ不公平な条件によって歪められたと考える程度において市場価格を操作することを、客観的な株式価値に基づくというよりは、いわばサンクションとして正当化されるという議論の可能性を探るに至っている。 第二に、株価がどのように各国会社法・証券市場法制度の中に参照されているか、そ こで実現されようとしている法的利益の核心は何かということに関する比較法研究については、アメリカ法における理論および判例の研究を通じて、上場株式における市場価格の参照は制限的であり、日本法の現状が株主保護という点で際立っているを浮かび上がらせた。また、企業の経営判断を重視しつつ種々の考慮要素を総合的に判断しながら判例法が形成されてきたアメリカ法と違い、イギリス法及びEU法においては、企業再編過程における少数株主あるいは一般投資家保護という視点を軸にした法制度化が進んでいるという見通しを得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は本研究の最終年度となるため、以下の諸点について総括を行い、さらにこれらを統合する形で、本研究目的に対する理論仮説を提案することを目指す。 ①上場会社の募集株式有利発行ケースにおける有利性の判断基準において、新旧株式間の公平性の観点からどのように株価が参照されているかについての考察。②証券市場における証券発行会社もしくは役員等、証券会社その他仲介者、公認会計士もしくは弁護士等専門家に対して民事責任が問われる広範なケースにおいて、投資者原告の求める賠償範囲を画定する損害論の研究を通じて、株価がどのように参照されているかについての考察。③企業再編過程(合併、会社分割、株式交換、株式移転、及び全部取得条項付種類株式を利用した株主構成の再編)を通じて行われる少数株主スクィーズアウトのケースにおいて、公正な再編対価を裁判所が決定する場合の判断基準との関係において、株価がどのように参照されているかについての考察。④閉鎖会社における株式価値の判断基準を分析することで、上場会社における株式価値を判断する際に株価を参照するということがどういうことなのか、すなわち株価が表しているものは実体としての株式の何であって、何でないのかについての考察。⑤アメリカ法において公開会社の株式価値が問題とされる種々の法的局面を整理・包括し、特にこの領域における最新の理論研究にも関心を払いながら、アメリカ法において捉えられる株価の意義及びその機能に関する標準的見解は何かということについての考察⑥イギリス法及びEU法においては、企業再編過程における少数株主あるいは一般投資者保護を軸にして法制度化が進んでいるため、イギリス法・EU法研究をさらに掘り下げ、証券市場において形成される株価が投資者保護によって特徴付けられた法制度の中でどのように位置づけられもしくは機能しているのかということについての考察。
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