本年度は、法比較調査と並び、審査後登録主義の必要性と、他の知的財産権領域での審査必要性に関する議論状況等を調査した。 シンガポール調査では、最近の意匠法改正作業で審査有無という議論は国会でされなかったようで、審査が行われないしくみがなぜ採用されたかにつき、更に遡った調査が必要と判明した。 各国法・立法状況調査の過程で、3Dプリンタによる私的実施を侵害とすべきかにつき特にアメリカで議論が盛んであると判明したので、研究代表自身の考えを国際学会で報告することとした(報告決定)。私的実施は侵害といえないが、3Dデータの提供者に対しては、間接侵害規定(意匠法38条)類推適用により、侵害責任ありとの見解である。また、地理的表示は審査後登録主義が不可欠とされ(連携研究者Thuy博士の研究)、同様の見解をウエリントンのカンファレンスでも得た。知的財産権の他領域で、これほど明確な審査が必要という領域はなく、その理論的基礎を意匠法の場合と比較する作業を開始することとした。また、著作権法については、欧州での調査では基本的に審査有無に関する議論はないと確認され、商標領域では、Kur博士から日本の立体商標との比較という視点の示唆を得たので、調査を開始した。日本では、立体商標も意匠も審査後登録主義であるが、商標については商品形態として不正競争1号類型の無審査型「権利」との併存という異なる状況が存するため、慎重に検討をしていく(家紋、陶磁器デザイン、椅子のカバーデザイン等の調査を実施した)。 なお、未保護領域については、日本の平成11年法改正作業において、デジタル画像のデザインは、審査しきれないとの見解が強く主張されており、審査後登録主義が保護導入の足かせとなっている状況であった。この問題関心が諸国でシェアできるかという点の調査も進められているが、デジタルを対象に含める国でも方向は一様でないことが確認された。
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