研究課題/領域番号 |
23330062
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
吉原 直毅 一橋大学, 経済研究所, 教授 (60272770)
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キーワード | 自由時間の不等価交換 / 「連続性」公理 / 公理的分析 / 一般均衡分析 / 合理的経済人 / 正直な行動に関する道徳的選好 / ナッシュ遂行 / ワルラス均衡対応 |
研究概要 |
自由時間の不等価交換に関する評価指標の公理的分析及び動学的一般均衡分析の研究を重点的に行った。この自由時間不等価交換指標の公理的分析に関しては、当初想定していた公理が経済学的含意としては強過ぎて、あまり説得的でないという事が明瞭になり、公理体系を再検討せざるを得なくなった。そこで、数学的技術的条件ながら、普遍的に適用される「連続性」を代替的な公理として、この経済問題の論脈での定式化を試みた。そして、「連続性」公理を導入した結果、公理的分析はより高度な数学的解析を伴うものとなったが、結果的に望ましい自由時間不等価交換指標の一意な特徴づけの証明に成功した。さらに、その成果は15th Conference of the Research Network on Macroeconomics and Macroeconomic Policies(FMM)(Berlin)にて報告された他、2012年1月の米国シカゴでのAmerican Economic Associationの年次大会でも、極めてinnovativeとの高い評価を得た。また、この公理的裏づけを与えられた自由時間不等価交換指標を用いて、極めて標準的な動学的一般均衡的完全競争市場経済モデルの下で、自由時間に関する不等価交換が生成する経済メカニズムの構造についての理論分析を発展させ、完成論文に近づけた。この研究もまた、2012年1月の米国シカゴでのAmerican Economic Associationの年次大会にて報告された他、15th Conference of the Research Network on Macroeconomics and Macroeconomic Policies(FMM)(Berlin)でも報告された。また、経済制度設計の基礎理論研究についても大幅な進展があった。従来の純粋な合理的経済人たちからなる社会モデルでは、多くの代表的な社会的選択ルールがナッシュ遂行不可能という結果が知られている。対して、本研究では、正直な行動に関する道徳的選好を少しでも持っている個人が一人でも存在するような「不純」な社会モデルにおいてこそ、ワルラス均衡対応を初め多くの社会的選択ルールがナッシュ遂行可能となる事を示した。これはアダム・スミスの「見えざる手」論以来の、経済学における伝統的な理念の妥当性に疑問符を賦与する意義を持っている。その他、折衷主義的な判断関数として合理化される協力的交渉解の公理的特徴づけの論文を完成させ、CEPET Sumer Workshop 2011にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自由時間の不等価交換に関する評価指標の公理的分析は、何度も書き直している段階であり、より優れた理論分析結果を含む完成度も高い原稿に仕上がりつつあるが、尚、完成には到っていない。平成23年度は当該研究プロジェクトに関するディスカッション・ペーパーを計8本、新たに書いている。それらの多くは、本プロジェクトの主要テーマを研究するプロセスで生み出された副産物的な研究成果であり、短いノートも含まれているが、そのようなノートもすでにレフェリー制度の国際誌に掲載予定となっている。
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今後の研究の推進方策 |
極めて多様な研究テーマを並行的に推進している性質上、いずれも進行状況が中途半端になるという危険性を常に孕んでいる。それを避ける為には、各テーマごとの研究協力者の協力がより一層重要になると共に、ある程度の時間の傾斜配分をせざるを得ない。その結果、当初の予定と異なり、平成23年度は経済制度設計の基礎理論研究において著しい進展があり、主要な研究成果がすでに完成している。今後は、自由時間の不等価交換に関する評価指標の公理的分析に関する主要研究を纏めた論文の完成とレフェリー制学術誌への投稿が、まずは最優先課題として重点的に時間配分される必要がある。
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